口淫銀桂

赤い舌先が、小さな口から飛び出ている。テラテラ唾液を光らせて、まるで蛇のようだ。
じゅるりと淫猥な音がして俺は堪らなく興奮した。
股の間に潜り込んだ彼は長い髪を耳にかけ直して俺の猛る熱に何度も舌を行き来させ、口腔に含み、手淫する。
雄にしゃぶりつく彼は、美しかった。
あまりの美しさにくらくらする。少し汗ばんだ髪を撫でてやると、上目で俺を見てから嬉しそうに目を閉じた。(どこの花街から来たんだと問いたくなった)
そのはだけた着物が俺の欲情をそそる。
左肩は抜かれているが右はずり落ちた状態で、白い着物に黒髪は散り、この世界のものではないかのような妖艶さがあった。何か媚香でも嗅がされたかのような艶やかな姿と耳に届く淫らな音。

布ずれや髪の束が落ちる音でさえ、俺には快感の対象になっている。
熱はまだ収まらない。
彼は俺の教えたとおりに舌を動かす。猛った男根の裏筋を舐め、双玉を揉みしだき、亀頭をいたぶる。やめてくれと言わんばかりの快楽が何度も俺を上へ上へと押し上げる。嗚呼、
彼の唇から、俺の唇から、熱を孕んだ吐息が漏れる。彼はこの行為を拒否する事もない。むしろ愉しんでいるようにも見える。それだからこそ俺は彼を丁寧に扱いたくなるし、壊したいとも思う。
愛の言葉は囁かない。ただ熱い吐息を漏らして、こんなことをさせるのはお前にだけだと髪を撫でる。愛してなきゃ、信頼してなきゃ、こんなことはさせない。(それがポリシー)
彼は気付いているのかいないのか。

言葉など無くても、甘い吐息と白濁と性欲と
それら全てが正しく吐き出されば愛を誓ったのも同然。
ホワイトアウトした思考と脱力した身体と、愛すべき彼と、それが全て。

脱衣銀桂

組み倒して、着物をまさぐる。
真白な不健康そうな足が見えたが、それにさえもそそられた。決して細くはない筋肉質な身体をいたぶって、愛してやりたくなった。
着物の裾に左手を入れて脚を撫でつつ右手は帯へ。鯉口縛りのそれを片手で、しかも組み敷いた状態で解くのは技術が入り用だった。
しかし諦めなどしない。(というか止める気はない)
脚だけでびくびくと感じている彼の頬に軽く口付ける。(もしくはこの後の行為への期待からか)
少しずつ上がってゆく息使いにこちらも興奮してきてしまう。
するりと帯を引き抜いて、脇へ投げた。
下から上へ着物を割ると美しいまでの肌が見えた。至る所まで撫で回し、左右の袖を抜く。(その間に震える彼がたまらなく愛おしい、滅茶苦茶にしてやりたい)
俺の愛撫を受け入れて、エロティックに喘ぐ。熱い吐息が掛かる、甘い。
下着の上から熱に触ってやるとそれは既に固かった。くすりと微笑んで下着に手をかけると彼は羞恥に顔を背けた。
ちゃんと俺を見ろと言うように顔に手を添えて、視線が交わる。愛より深いこれは熱情。
そのまま下着を一気に引き抜いて、足を抜かせる(彼はやはり恥ずかしそうに目を瞑ったが)
緩く熱を握ればこちらの腰にくる喘ぎを漏らす。辛そうだとも思うと同時にサディズムに駆られる。もっと喘がせたい。求めさせたい。鳴かせたい。
そんな時俺は快楽と破壊は紙一重の場所にあると思うのだ。(愛しているよと言われた時からお前の全ては俺のものである)
「…っあ、」
いやらしい喘ぎ。身体。
きっと彼の本能も求めているのだ(何をってそれは勿論欲望を、)

愛してる愛してる愛してる、心の中で呟いた。(お前の淫らな身体が好きだ)

鬱血土沖

べろりと首筋を舐めてやったら「ぁ」と小さな声が聞こえた。
可愛いと思う。
止まらない。
日に焼けるのが嫌いだと言う彼は、彼がそう自負する程には白い肌を持っていた。色素の薄い髪と目に釣り合う様に白い肌。
そんな彼の首筋は何度見ても美味そうだ。噛み付いて、吸い上げて、舐め回して、食べてしまいたい。
そう思って舌を這わすうちに彼の腕は自然と俺の首に回り、俺は一層深く彼の首元に顔を埋める。(もしかするとこれがカニバリズムと言うものかと脳の隅で思った)
「……ふ、」
たまに苦しげに詰まった声が熱く吐き出される。その声に溶けたいと思った。
舌先で顎のラインをなぞり喉仏を舌で強く押すと、子供のようにいやいやをして身を捩り髪を掻き乱して抵抗を見せた。それでも離す気はない。
じうと強く吸い付けば鬱血。彼はその痛みに涙を流す。(もしくはあまりの快楽に?)
俺は何も言わずまたその朱印を吸い上げた。
彼の手は俺の頭を抱き直しながら髪をぐしゃぐしゃにしてゆく。熱い熱を持った身体が触れ合っているのが余計に熱さを増してゆく。
熱が冷めぬ前に耳朶を緩く噛んで囁いた愛。

ほんの一瞬、彼の腕が強く俺を抱いた。

接吻坂高

顎へ伝わる唾液。
こんなにも乱れているのに止まることを知らない。止まれない。止まらない。
低く囁かれた名前が空気に溶けていった。こちらはその空気が足りないのに、激しさを増す口付けに翻弄されるだけだ。
くそ、押される。
身長も体格も負けているのはわかっているが、こんなもてなさそうな男に良いようにされているだなんて!(絶対俺の方が女遊びには慣れていると思っていたのに)
どこで覚えて来たかは知らないが、正直こいつの口付けは巧い。
好きにされているだけなのが腑に落ちず、何の抵抗も行動もないままでいた筈なのに、いつの間にか誘われるまま舌を絡めていた。(それ程甘く甘美な口付け)
歯列、上顎、舌の先、
こそばゆい、
頭痛がするほど空気が足りない。
酸欠だ。
正しい思考など断片も残らず消えていく。
舌先、ねっとりと絡まれた銀糸、飲み込めない唾液、絡み合う吐息、
日除けを無くした瞳が俺を犯してゆく。脳が焼けただれてしまいそうだ。
名前が聞こえる。俺の名前が。
もう何度言われたかわからなくなる程、名を呼ばれた頃、俺はだらりと下げていた手を頭へ回した。
好きだとは告げなかった。ただ強く舌を吸い上げてやった。
愛してるなんて言えない。(本当にそうなのか俺もしらないからだ)
ただ苦味のある煙管の煙が部屋中に充満していて俺からも、こいつからも煙草の臭いがして味がして、
嗚呼、
柔い唇、
もっと激しく だ。
男の瞳に犯され
男の舌に犯され
それでもよかった
このまま交われば溶け合って油のようになるのではないか、心配事はそれだけだった。

アンモラルの泥に埋もれゆく片足、

SM銀桂

ぎりりと肉に縄が食い込み赤く擦れる。
あう、と声を漏らしてしまうが喘げば喘ぐだけ男の残虐心をそそるのだろう。彼は俺に手を伸ばし、擦れた皮膚に爪を立てた。痛い。
耳の裏を舐められて、感じてしまう。勿論痛みにも。
どれだけ淫猥な身体にされてしまったのだろう。
こんな仕打ちさえも快楽につながるなんて自分でも驚きだ。(冷静な考えと正反対に身体は熱を持て余す)
熱い吐息を吐いて、縛り上げられたまま熱の解放を乞うてみる。
男はにたりと笑い蝋に火をつけた。(それをこの身体に垂らすのかと思うたら熱が一段と大きくなった気がした)
「、…ぎ、ん」
熱い。
脳がとけだす感覚。
心臓は締め付けられ、これは病気だ。
耳に舌を入れられ一言、めちゃくちゃにしてやるよと狂気の声。顔を見つめると紅の瞳が光っていた。咥内に苦味ある薬を含まされた。目眩がする。
艶めかしい欲情は生々しくて、俺は痛みに(いたぶられる事に)、快感を感じる(変態趣味だと笑いたければ笑え)

めちゃくちゃにしてくれ(この身体はお前にしか開かない)

飲精銀土

手中に溜まった白濁を、指を伝わせ咥内へ。
上を向き一滴一滴を味わうように垂らす。苦味には慣れ、嫌悪感も少なくなった頃、常識は崩壊した。
自らの指をしゃぶりつくし、掌の精液も舐め尽くした。手は唾液に塗れたが、それでも足りない。
お前の指を舐め尽くしたい。できればその男根も。そうして一滴残らず搾り取ってしまいたい。
愛すべき衝動が俺を駆り立てる。
場所、時間、行為、全てがモラルに欠けている。一般常識外の「男との行為」

好きだ愛してる離さない

何度目になるか知らない言葉は嘘臭くて、それなのに信じたいと思ってしまった(せめて行為の間だけでも)
同じ体格の男に組み引かれる雪辱が身体の奥を熱くする。もっと下さいと乞えば厭な笑いが聞こえる(心臓がじくじくする)
赤黒い猛りは緩く白濁に濡れ、くわえ、いたぶり愛を囁けば顔中に命の種は振り掛けられる。根付きはしない種だが愛しい(そう、俺だけにそれをくれるのだと信じている内は)
滴る液を掬い上げ、これ見よがしに舌を出し舐める。飲めたもんじゃないこんなものは、そんな飲めたもんじゃないものを飲むという背徳行為!
嗚呼、なんという快感!

好きだ愛してる殺してくれ

最終的に呟かれた苦しげで甘美を含んだ嘆きが耳元で跳ぜた。(目の前がスパークした)
離さないで俺だけを見て最後まで愛して
馬鹿か、お前はと心底思うた。離すつもりなど端から無い。(そんなつもりがあればこんな阿呆のように乱れはしない)
死因は腹上死しか許さねぇよと色めいて笑えば彼も紅い瞳を細めて笑った。

欲情、愛欲、熱に駆られ

聖夜銀桂

「Merry Christmas」
耳元で、低い声で、柔らかく囁けば、優しさを知らない彼は信じられないとでも言うように目を見開いた。今まで散々虐めてきたから優しいのになれてないのかな?なんて冷静な脳で思いつつ、着々と服を脱がしてゆく。指先がほんの少し肌に触れるだけで、彼は過敏に身体を揺らす。
俺も彼も酔っている。
「好き、だよ」
だから俺は絶対言わないことを言ってやった。土方は今まで以上身体を揺らして、潤んだ瞳で見つめてきた。いや、泣いていた。
きっとこいつは俺がいつも言わない事を言うから、何かあらぬ勘違いをしているんだ。
これでも勘がいいんだ俺は。
きっと『今日で最後』とか『捨てられる』とか思ってんだろうな。馬鹿だなぁ。こんなに好きなのに、ね?
だけど仕方ない、そんなに愛が伝わらないならいっぱいの愛をあげようか。
思った瞬間、即行動。脇に置いてあったケーキに指を指した。生クリームとスポンジが指についたのを確かめてから舐めてみる。うん、うまい。
まんべんなく舐めとっていたら、視線を感じた。やっぱりね、放置されてるのがイヤなんだよね?
ついさっきまで不安そうな顔してたくせに、今はまた欲情した顔で見てくるんだもの。
だからもう一回、指でケーキをすくってそれをそのまま彼の口に突っ込んだ。一瞬眉をひそめたけど、すぐに舌を使って舐め始めるこの子は本当にエロくてかわいい。大好きだ。

指先、関節、爪
甘噛みしながら吸い上げられて唾液にまみれていく指、薄い唇から漏れる吐息が絡みついていく。笑ってしまいそうだ。(彼はこんなにも忠実なのに、俺は全く誠実でない)
「もういいよ」
冷たく言ったつもりはないのに彼はビクッとしてから悲しそうに見つめてきた。目、赤い。
少しでも安心してほしくて額にキス。それから瞼に、鼻に、唇に。
たくさんたくさんキスをして、彼の指の間に自分の指を絡めて、「離さない」と言ってあげた。
それでも不安げな顔をしてたから、明日素面に戻ったらまた言ってやろうかとも思った。
(それが、クリスマスプレゼントでよければだけど)

言責銀桂

「 い ん ら ん 」
月明かりだけでもその白い肌が跳ねたのがはっきりとわかった。
男の腕の下で漆黒の糸が激しく乱れる。
「…やらしいかお」
「や、…めっ」
嫌だ嫌だと桂は頭を振ったが、銀の欲は激しさを増した。ふ、と笑って桂の首を強く噛み、空いた腕を股間へ這わせた。
「気付いてる?ココ…もう完勃ちしてる」
クスクスと冷たい笑い声、その強さに桂は鳴く。
耳障りな程の声だったが、銀時にとっては熱を増す為の種だった。
「…エロいカラダ」
囁く度に桂の身体はびくりびくりと跳ねて、濡れた瞳で男を見つめる。
「や……ぎ…んっ…」
「言葉だけで感じてんの?」
「ちが…」
「うそつき」
濡れた指をスルリと腹に滑らすと、女の様な愛叫を上げ、激しく震えた。
「もうこんなにやらしー液ビクビク出してんのに何が違うの?」
「―――…ち、」
声にならない羞恥にまた「違う」と言いかけて桂は唇を噛んだ。身体は順応に反応してゆくが、どうしても精神がついて行かない。(一層のこと思考を壊してくれ)彼はそう思った。
「声我慢すんなよ、精々喘げ」
そう言うが早いが男は勃ち上がった熱を強く掴み込んだ。
「!」
声を耐えたわけではなかった。ただ余りの衝撃に息が詰まり、声が喉に張り付き、空気に混じらなかっただけだ。(そう、確かに桂は叫びを上げた筈だった)
その様子を見止めたのか男は目を細め、桂に微笑む。
「…これさ…」
陰茎を掴んだまま呟く男の紅い瞳は笑っていない。
「勃ったまま変な力入れると折れるって知ってた?」
――俺の力なら余裕じゃね?
くっと咽の奥で笑う様が激しく昔の「彼」を彷彿とさせた。桂は思わず身震いした。怖い――恐怖に涙が出た。
「想像、しちゃった?」
「……銀っ…やめ」
男は、震え涙す桂の瞼にそっと唇を落としたが根本的な肉欲が払拭されたわけでもなく笑んだ。
「どうして欲しい?」
「……っあ、」
優しくしてくれと、望むことさえ出来ぬ。(激しさを求む淫猥な身体めが)
詰まる息、喘ぎの中で桂は言った。(壊してくれ、と)
銀時は厭らしく笑んで桂を抱いた。

(理性は既に飛んでいた)

媚薬坂高

(サングラスの奥の瞳に、堪らなく欲情する。見られている、それを感じるだけで躯は痺れ始めるなんて…淫猥な躯に仕込まれたものだ。)
(もう抜け出せるわけもない)
黒い木目の柱に背をつけて、腕を回され縛られている俺は身ぐるみ剥がされて真裸で、俺を口淫している男は半裸で、部屋には甘ったるい香が漂っている。
俺達はこんなにも不健全だ。
いつの間にか男の唇は下腹部から離れ、もっさりとした黒髪が首筋に埋まっていた。男は器用に手首の拘束も解いたが、締め付けが強かったのか俺の手は痺れていた。血流が戻る感覚が気持ち悪い。
「わしが帰ってくるまでに何人抱いた?」
男は熱っぽい声で聞いた。
「さぁな」
答える義務など俺には無いと男の髪に手を回し、もっと近付けとその顔を首へ押し付ける。
「何人に抱かれた?」
俺はその問いは鼻で笑って返してやった。
「強情じゃの」
そうして首筋を強く吸い上げて、一瞬の痛みに息が詰まる。馬鹿力め、強すぎだ。
沈黙の間、男は俺に手を出さなかった。滞留した熱が鬱陶しく、妙に癪に障った。
「…土産は?」
鬱憤を晴らすべくという訳でも無かったが、話を逸らす。
「欲しいかの?」
「俺を待たせた詫びの分くらいはな」

すると男は笑って額に一つ口付けて部屋の隅に放り投げたコートのポケットを探っている。
寒い、早く戻ってこい。口には出さず念じていると、彼は意外にも早く戻ってきた。
手に白粉の小袋を持って。
「のぅ、晋?」
優しさと冷酷さを秘めた声が聴覚を犯してゆく。
「自白剤ちゅうのをしっちょるか?」
知らないわけがないだろう。
「おんしは拷問につよそうじゃきに」
うっすら笑った目に狂気。誤って殺されかねないと思った。この男なら…やりかねないが、俺を殺すような馬鹿でもない。
「……使う気か」
「…大事な晋に出来るわけなかろーが」
柱にもたれたままの俺を押し倒し、のし掛かりながら男は言った。
「じゃが、晋が白状するまでは土産はやらんき」
「白状?」
抱いたのと抱かれたのとを、そう聞こえた。(が、同時に局部に塗布された粘液に気を取られて、その言葉は夢かとも思えた)
「…く…ぅ、ぁっ」
熱が、再び勃ち上がって来る。躯の奥底にもじわりとした熱が孕む。
「言うてみ?」
男の口角が上がったのを俺は見逃さなかった。

(言えるか、)
そう思って口をつぐんだのがまずかった。男がゆるゆると俺をいたぶり始めたからだ。
俺は彼が言ったように拷問でも恥辱でも耐えてみせる自信はある。なのにどうだこれは。
これは、快楽だ。
「…言う気はないんじゃな」
当たり前だと言いたかったが空気を求めることだけをしていたら半ば過呼吸になってきた。苦しい。
まだ鮮明な意識の中で、俺は先程の袋が開いた音を聞いた。(使わないと言ったくせに…)
嘘吐きめ。
思った次の瞬間に、男の指が口内に入ってきた。指先に先の白粉が付いていたが躊躇わず舐めとってやる。
自白剤だろうが所詮は麻薬と同じだ。少量で廃人になるわけでもない………
(?)
違和感。
「…実はの、晋助…」
胃が焼けるように熱い。ああこれは自白剤どころではない毒だと思った時には全て嚥下してしまっていた。
強い酒を一気に飲み干した時のような感覚がする。否、それよりも性質が悪い。一瞬で性欲の痺れが全身を駆け巡った。
「…っ、な…盛った、のか……?」
「天人特製の催淫剤じゃ…しかし変じゃの、前試した時はもうちっくとよう効いたんじゃが」
誰に試したんだ。誰に。しかし苛々するよりも経験したことのない疼きが一気に脳天を貫く。
何でも良いから早く
「たつ、ま…っ」
熱を解放させてくれ(もうお前にしか躯が反応しねぇんだよ)
「言う気になったがか?」
「…ってめ、く…は、っ…抱いてねえし……抱かれてもねぇよ…!」
目が厭らしく細められたのをみた。
「いい子じゃ」
額にひとつ口付けて、指を絡めると熱い吐息が坂本の耳元で聞こえた。
全身の全てを深く、絡めた。

雨音銀桂

長い長い長い雨の音。最後に見た濡れた長い髪。傘を差さずに、彼は歩いていた。雨の音と色素の薄い彼の声。
「…何やってんの」
「雨」
「いや、シャワーだからそれ」
「そう」
たまにおかしな事をする奴だと昔から知っていた。雨に打たれてびしょ濡れでやってきた桂に、風呂に行けとか何とか言って風呂場に追いやったのが一時間前だ。絶え間ないシャワーの音が一時間以上、ありえねーと思って見に来たら案の定だった。服のまま座り込んで頭からシャワーを浴びている。しかも水を。
「水道代払えよ」
「ふん」
もう何度目かになるから俺も驚かないし、そうして今日はコイツもまだ正常値内に居た。二回くらい前だったかは酷くて、俺が何を言っても「ああ」としか答えなかったから。
シャワーコックを閉めて水を止める。風呂場の床が冷たいのを素足から感じて、ふと、こいつの方が冷えているだろうと思った。
「ったく…」
こいつもこいつだが俺も俺だ。こうやって放心しかけた時の方が従順になると知っていて抱くのだから。
しゃがみ込んで視線を合わせれば彼は恥ずかしそうな顔をして視線を外す。そんな行動を見ていると、コイツは俺に抱かれたくてこんな事をしているんじゃないのかと自分本位の考えが浮かんでくる。
まあ、それもどっちだっていい。結局俺はこいつを抱いて、こいつも俺に抱かれる運命なんだから。

水に濡れた上着を脱がしにかかる。濡れた服を剥ぐというのは面倒かつ困難だ。それでも弱りきってなすがままにされているこいつの着衣を脱がすという背徳感に興奮してしまう。
帯を解こうと腰に手をまわした時、あまりの体温の低さに恐怖を感じた。驚いて上を見れば、そこには真っ白を通り越して青白い色をした顔があった。それでも伏せた瞼を縁取る睫と、半開きになった唇が微かに熱を持っているようにも見えた。
服をすべて脱がして、冷えた体を抱きしめた。
座り込んで抱いたまま俺は再びシャワーコックに手を伸ばす。今度は熱い湯を。
突然の熱さにびくびくと桂の身体が跳ねる。俺はそれを押さえつけるようにきつく抱きしめたまま、頭からずぶ濡れになっていった。
両手で頬を包み込んで何度もキスを繰り返していく。口内に湯が入ってきても気にせずに。彼の小さな唇は女のもののようにぷっくりと綺麗に整っていて、俺はいつだって魅せられている。微かに震える唇を温めていく。白い湯気が風呂場にゆっくり蔓延していくのをぼんやりと感じながら彼の肌に触れていった。
途中、自分の服は脱ぎ捨てた。直接触れる肌と肌が心地よくて、ずっと触れていたいとさえ思う。俺は女を抱くし、コイツも女を抱くから、この行為というのは何か割り切ったような意味を持っている。俺が今こうして彼を抱くのはもう決まりきった儀式みたいなもので、それでも、俺には多少の下心があった。
簡単に言えばコイツに惚れているという事実。コイツは俺をどう思っているんだろう。
嫌われてはいないが、恋心があるようには見えなくて、俺は予想でしか動けない。何度肌を合わせても心の底から満たされた気にならないのはきっと通じ合わない想いのせいだ。
「小太郎」
下の名前で呼ぶのはこの時だけ。俺は真剣なんだという事に気づいてほしいから。
風呂場に響く、彼の詰まったような喘ぎが俺の熱まで高めていく。まだ、手で身体に触れているだけなのになんて声を出すんだこいつは。
もっともっと触れたくなる身体、こいつとだったら一生抱き合っていてもいいくらいだ。
甘ったるく鼻から抜ける声が女のようだ。そうしてえらく扇状的な姿のまま早くと言われた。未だ流れ続ける温水。彼の身体は温まったのだろうか。冷たい壁に背を預けている彼を抱き起こし、熱い湯の張った風呂へと入れてやる。ただ自分が寒かったというのもあるし、彼の体温が低かったのもある。まあどちらにせよ彼はとろんとした目で俺を見ていて、嫌がってはいなかった。
後ろから抱きかかえるようにして腰に手を回すと彼の身体が跳ねた。そのまま下腹部に手を伸ばせばあられもない声が聞こえてくる。
「小太郎、気持ちいい?」
「っやぁ…っ!…んっ」
押し殺した声にゾクゾクする。そのまま熱を扱いてやるとその度に大きく喘ぐ彼。
男の身体はいい。感じているかどうかに酷く正直だから。
「ね、小太郎?どうされたい?」
ギリギリ、吐精をせき止めながら両手でいたぶっているこの状況で答えは一つしかないだろう?それでも聞きたかった彼の声は、俺の熱を高めるためにも必要だった。
耳元で低く囁いて、首筋に噛みついたり耳朶を舐めたり、それすら敏感に反応する彼が愛おしくて、激しく求めたかった。
「言って?」
「ぎん…と、いきた…い……いっ…しょにっ…ぎんっっ」
俺も湯で大分のぼせてきたが、彼は既にくったりしている。
それでも俺の要求に答える彼。ああ、がっつきたくなる。
クラクラしてきた頭をどうにかしようと後ろから抱え上げるようにして立たせて、壁に手を付けさせた。その仰け反った背が何ともいやらしくて生唾を飲み込んだ。
「…っぎん、はやく…」
俺だって早く入りたい。それでも傷つけないよう、指で柔らかな蕾を解していく。声を押し殺したような息遣いが聞こえる。狭い風呂場に響いて、四方からその零れる吐息が聞こえるようだ。
暫くそのまま楽しんでいると、俺のじらしに耐えきれなくなったのか彼が壁についていた右手を彼自身に持っていった。
「自分で…しちゃうんだ」
「あっ…やっ!だっ…ぎ…んっ、ふあっっ!」
耳元で囁いてやると激しく身体を痙攣させ、彼は果てた。
「…感じちゃった?」
ねっとりとした空気を含ませて問えば細く上がった息をしながらこくこくと頷いた。その仕草の可愛さに目眩がするほどで、そうして、「守りたい」と思った。
加虐性愛(サディスト)を誘う淫らな身体のくせに。どうしてこんなに、脆いんだ。

腰に回した腕に力を込めて、密着した身体で全てを感じて、溶けていきたいとさえ思いながら、彼の願いを叶えてやる。
「ふ…あっ…!ぎっ…ぎんっ…!」
肉と肉がぶつかり合う音がする。なんて気持ちいいんだろうか。身体は正直に動いていく。それでも思考は少し浮いていた。
ねえ桂、そんなに熱を孕んだ声でどうして俺を呼ぶの?俺らの関係って恋人じゃないだろ?それなのに、名前を呼ぶなんて卑怯だ。俺はお前が好きだから抱く。お前はどうなんだ?ただの性欲処理?
「小太郎っ…、」
「は…っう、んっああっ!」
熱い子種をぶちまけながら、ああこいつを孕ませられたらいいのに、なんて非道な考えをしてしまった。
長い射精感を味わいながらも、腰を振るのは止めなかった。断片的に漏れる声、喘ぎと、粘着質な水音。
「く…ぅ、ぎんっ…んっ…はっ」
きゅうっと中が締まって、そしてまた彼も果てた。湯に当てられた上に二回も吐精してさぞ疲れたことだろう。
風呂場に充満する生臭い精の匂いにうっとりとしながら彼の顔をこちらに向けた。繋がったままの状態で多少苦しかったが、彼の溶けたような表情を見たらそんなものは吹き飛んだ。

「まだ足りない…?」
指で唇をなぞってやると、彼は目に涙を溜ながら一度だけ頷いた。
「ぎん…」
小さく声がする。
「雨、は止んだか」
意味が分からず俺は戸惑ったが、一応頷いておいた。すると彼は本日初めてにっこりと酷く扇状的な笑いを見せた。
「よかった…」
掠れた声を、聞いた。


昔の話さ、昔のな。
今俺の愛しい彼は、俺の隣でのんびりとしている。
世間ではこういうのを恋人同士と言うらしいし、俺らもそれで通っているだろう。
その証拠は彼に問えば分かる。今なら俺は聞ける。「俺の事好き?」と。聞けば彼は恥ずかしそうに目を反らしてから「好きだよ」と呟くのだ。それがとても幸せだと思った。
それは、まあ、いい。
俺が今彼に聞きたいことはそれではない。

「なぁ、雨って何?」
「空から降ってくるものだろう?」
「そうなんだけど…いや違くて、」
「なんだ」
「お前が俺に向かって言う雨って言葉で…ほら、よく俺がお前を抱いた後とかよく…」
「あ゛ー!分かったから言うな恥ずかしいっ!」
いつまでたってもこの手の話が苦手らしい彼は大声で叫んで俺の口を塞ぐ。
「で、何なんだ?」
「…意味を…知らなかったのか」
「全然?」
「………」
困ったように目を伏せて。俺がそういう表情に弱いと知ってやっているなら、卑怯だろう。つい、許したくなる。
「で、雨って?」
騙されてはいけない。騙されては。
「…今日は降っていない」
「降ってるんでだけど」
どちらかというと土砂降りの天気なのに。そう言うと桂は小さく首を横に振った。
「お前の話だ、銀時」
「俺の?」
「無自覚め」
彼は少し怒ったように言って、俺の横に座り直した。
「目を閉じろ銀時」
「こう?」
好きな奴から目を閉じろと言われて期待しない奴はいない。少なくとも俺は期待した。その後すぐに彼の手が俺の視界を遮った。これで、目を開いても闇になった。
「何これ」
「………」
聞いても彼はだんまりを通した。雨の音しか聞こえない。窓を打ち付ける雨はひどく五月蝿い。外を歩く人間の足音が鮮明に聞こえる。駆ける小さな足音も。跳ねる水音も。雨音。傘、傘、白い影。影、長い髪、色素の薄い先生の―――  !

眩しい。気付いたら目を開けていたし、桂の手は離れていた。
「分かったか?」
「……多分」
俺の手を、彼が握っている。温かい。
「雨で狂うのは俺も、お前も、同じなんだ」
桂は言う。だからああして慰め合いをするんだと。
「今は?」
俺は聞いた。
「狂いたいなら好きにしろ」
そういって羽織を脱ぎ捨てた彼もきっと狂っていた。
雨音に映った彼(せんせい)の最後の時の顔が
今でも瞼に焼き付いている。

放置坂高

例えば、いつも気丈で強い彼が馬鹿みたいに狂って俺を求めたら。考えただけで、熱が上がる。快楽に従順になって俺のを泣いて求める彼が見てみたい。それだけの理由だった。
「は…ええ格好しとるの」
上がる息が抑えられない程、今の彼の状態は扇状的。両手両足をベッドの四端に括られて動けない格好で、引き裂かれた衣服をほんのすこしだけ纏っている彼はあまりにも妖艶。もっともっと、乱れて欲しいと願った。
これは殆ど同意の上だ。本気で逃げ出したければ彼は自分の手足を千切ってまで逃げだそうとするから。
ゆっくり彼に覆い被さる。薄く開いた唇に噛みつくようにキスをする。溶かしていくように柔く柔く舌を絡めると彼も応えた。漏れる声は男のものとは思えないほど艶やか。飲み切れない唾液が彼の顎を伝う。

「んん…」

申し訳程度に残った着物も床に放って、整った身体に舌を這わす。彼は小さく身じろぐが、手足の自由が効かない為にそれ以上はない。
自分はいつからこんな男好きになったんだと胸中で苦笑しつつ、まだ萎えている彼の茎に口付けた。一層身体が跳ねるのが面白くて、口に含んで何度も転がす。ぐちぐちとわざと音を立てながら、舌で抉るように吸い上げて。そうして勃ち上がったそれから先走りが染み出てくる頃止めた。彼を壊すための準備だ。
ひとつ、麻薬に近いが麻薬ではない合法的な薬で乱す。粘膜吸収が一番効率がいいと、座薬を入れるように彼の蕾にそれをいれた。これで彼の熱は上がる。
ふたつ、痒みを伴う薬を塗り込む。痒みとは時に痛みよりも辛いものだ。
みっつ、手中で小さく蠢く玩具を彼の中に入れて放置。

「いい子にしとるぜよ」
きっと、これで彼は墜ちる。
数刻してから部屋に戻った。頭の中は彼の痴態ばかり。セックスは好きだ。性欲を納めるだけでなく、快楽という点で。俺は快楽主義者で、それに対して積極的なだけだ。
無機質な部屋の扉を開けると、精液独特の臭いがした。笑いたくなる衝動を抑え、彼の横たわるベッドに近付くと彼は虚ろな目で宙を見ていた。
開いた口から垂れる唾液、白濁に濡れた腹、飛び散った精液、四肢の自由を求めたのか、手首も足首も鬱血したように縄目がついている。
「しんすけ」
低く声を出すとびくりと身体が跳ね、視線のピントが合った。
「…はっ…つ……」
声がもう出ていない。否、息すらも。
小刻みに震える身体が求めるのは溶けた愛欲だ。小刀で、足首の紐を切ってやって、ベッドに手を付いた。大の男二人分を支えようとするスプリングがギシギシと軋む。
彼は自由になった足を腰に絡めてきた。全裸の男が、俺を誘う。倒錯的な光景に目の前が揺れた。
「つ…ぁ…――っん」
鼻にかかった声を出して、自由の効く足を駆使して俺に擦り付けてくる姿は、常なる彼の姿の片鱗も無い。それが堪らない。
「た……っん…くぅっ」
声にならない声で俺を誘っているようだ。なんて可愛らしい上に淫らな。
「欲しいか?」
冷たく問うても、声色に気付いてはいない。ただ何度も首を縦に振って口を開けて酸素を求めていた。
邪魔なコートも着物も脱ぎ捨てて、真裸の男が2人、ベッドの上で密着しているのはなんとも可笑しな光景だったろう。
「ほしいんなら自分での」
そう言って手首の紐も切ってやると、彼は緩やかな動きで起き上がった。全身が痺れているのか右の目に涙を溜めて、俺を座らせるような形にした。
その間も俺の名を呼ぶ声は止まらない。
彼はゆっくり下腹部に顔を埋めて、既に半勃ちであった俺に愛撫を始めた。こんなにも性欲を求める彼は初めて見た。少し薬を盛りすぎたのかもしれない。(しかしそれでもよかった)濡れた水音に熱を持った声。ぷは、と苦しそうに口から一物を取り出した彼はゆるゆると身体を起こして、首元に顔を埋めると甘ったるい声を出した。
「――っこわ…し、て……」
彼から腰を揺らして、俺のに己のを摺りつけてくる。激しくされたいのかと聞けば、上の空の意識で二度程頷いた。可哀想なほど求めてくる彼。いつもの姿はどこへ行ったのやら。この目の前にいるのは欲の塊なのではないか?それでもいい。俺がそうなるように仕掛けたのだから。
意識を飛ばさせないようにして、狂いに狂わせるにはどうしたらいいだろうか。

当面の課題が出来たことに俺は笑った。

拘束銀桂

天井から吊られるように頭上で一つに纏められた腕、布で隠された目、何も身に纏わない身体。髪が、背に触れる。立ちで、中途半端に浮いた腰が酷く辛い。気を抜いて腕に体重を任せると手首が締まってまた痛い。
「……んっ」
それでも口から零れるのは快楽の声。目隠しのままでも分かるほどの熱い視線が刺さる。
ああ、視線だけでイかせてみると言ったのは彼だったか?いや、俺が命令したのかもしれない。既に曖昧になった記憶が、脳にもやをかける。
「………ッ」
視線だ。絡みつくような視線。神経を澄ませば澄ますほど、見えていなくても視線がどこをなぞっているのか分かる。彼は全て分かっている。黙ったままなのも、息を殺しているのも、射抜くように見つめてくるのも、全てこうして俺の精神を壊すものだと知っているのだ。
生死をかけたことをしてきたからか、気配には無駄に敏感になっている。だから、こんなにも反応してしまう。
彼が、す、と動いた気配がした。思わず息を呑む。少し距離を置いているのに手だけが伸びてきたのが判る。空気が熱を帯びている。
耐えられず身を引くと、髪が背をくすぐった。それにすら反応してしまう身体が恨めしい。
その手からは逃げ切れない。
「や…っ」
拒絶、ではない。
彼の指が、喉に触れた。いいや、触れるか触れないか、そのギリギリの所で数度指が行き来した。何も纏わない身体に、刹那の熱。気が狂いそうだ。
黙ったままの彼が笑った気がした。
「銀、………ッ」
息が詰まったのは喉仏を強く押されたから。また彼が近づく気配、そして耳にかかる吐息。
「どう されたい?」
声だけで、息だけで、心臓がどくんと脈を打ち、強く胸を押しつぶされる。
どうされたいと問われた。触ってくれと答えた。いいよ、と聞こえたその声は、焼けるほど熱かった。
舌が耳を、首を、鎖骨を、這った。ゆっくりと、触れる。
壊される気がした。花びらを一枚一枚剥ぎ取れる花の気分だ。
「は……ぁっ」
熱い身体に、冷えた指。胸の突起に触れられた瞬間、背から下肢に一気に痺れを感じた。闇の中にある両眼から、熱い雫が溢れていくが、全て布に染み込んでしまった。
「……泣くなよ」
やめてくれと声は出なかった。困ったような彼の声が耳に響く。嗚呼、どうしようもなく愛おしい声だ。
胸が締め付けられた。
「ぎんっ………」
触れた手が離れた。名残惜しくて声を漏らした。もっと触れて欲しいと思ったが、今は「視線だけ」というアソビの真っ最中だ。ただ、足りないだけで。
彼は本気で見つめない。どれだけ熱い視線でも、決定打にならないのはおかしすぎる。普段なら、射抜くようなあの双眼で嫌と言うほど見つめてくるのに。
「ぎんときっ……」
ああ、その熱い手で触れてくれ。お前に抱かれるなら優しくなくたって良い。

「ああ、触って欲しかったんだっけ?」
なら触ってやるよ、と聞こえたと同時に、尿道口に爪が立てられた。あまりのそれに、腰を引く。が、後ろは壁だ。
ひ、と漏れた声を聞いたのか、彼が微笑んだ気がした。
加虐心を煽るだけだと知りながらも、声は止まらない。

締め付けられた手首から血の気が引いていくような気がした。
(縛られたのは身体より、心)
(どれだけ酷くされても許してしまう、いや許すではない、拒否権などない)
(ああ、もう、お前無しでは)

精液銀高

「不味い」
高杉の秘部に顔を埋めた銀時は、片眉を寄せて手の甲で口を拭った。
「てめーのだろうが」
「いーや、おめーのも混ざってる」
挑発するように銀時の赤い舌が唇から覗くのを見て、高杉は「へぇ?」と、からかうような笑みをみせて下を見た。そこには蛇のような赤の瞳がじっと座っていた。
(……厭な目だ)
思いながら、高杉は自らの腹に散った精液を撫でた。
「………舐めろよ」
白くぬめりのある液を掌にべったりつけて、指や腹の上で糸を引かせて遊ばせてから高杉は腕を伸ばした。その先にあるのは、銀時の顔。
高杉の手が汗で濡れた男の頬を包むと、男は間髪入れずに高杉の腕を掴んだ。そしてそのままその掌をべろりと舐め上げた。高杉はそのむず痒さに少し足を動かした。
それに気付かない程夢中に精液を舐める男の顔は濡れた色気を纏い、恍惚としているようにも見えた。
「お前、実は好きだろ俺の」
「……苦ぇもんは嫌ぇだよ」


(指を一本しゃぶられる、その感覚はまさに)