破壊衝動の向こう側銀桂 殺伐甘

綺麗なものなんて何一つ持っていない。この身体も心も思考さえも綺麗だと思ったことはない。
人は花を見て美しいと思う。星を見てもそうだ。確かに自分も花や星を見て美しいと思う。ただ同時に、壊してやりたいと思うのだ。手に入らないなら、いっそ醜く成ればいいだなんて我が儘にも程がある。
( 綺麗 )
それは、人形のような肌だった。そして真っ直ぐで癖のない黒髪、ああ、あの日盗み見た、あの日本人形のようだ。整った目鼻立ちといい、柔らかく中性的な顔立ちといい、その閉じた眼を縁取る睫の長さといい、美しすぎた。
( 壊したい )
その小さく柔らかな唇に指で触れた。それに人形の硬さはなく、俺は吸い込まれるように覆い被さって、ゆっくりと吸いついた。自分の乾燥した唇が、そのふっくりとした唇に触れることすら奇跡のように思えた。そっと舌で唇を割って、同じくらいの体温をもつ粘膜を何度も舐めた。そうしているうちに粘性のある唾液が交じり合う。気づけば夢中で抱きしめていた。

そっと唇を離すと、間に銀糸が伝った。同時に、その美しい唇がゆっくりと動いて俺に問いかけた。
「気は、済んだか…」
愚問だと思った。
「全然、」
この気が済むのは、美しいお前が汚い俺の手で堕ちた時だ。欲に浮かされた顔で俺の名を呼んで、浅ましく俺を強請っても、きっとお前は綺麗なままだ。その顔が見たい。
「足りない」
四肢から五感まで全てが欠落した感じがする。それを埋めてくれるのもお前だけのような気がする。好きすぎてどうにかなってしまいそうだ。2人どろどろに溶けて、消えたい。
「今」
片腕を背に回したまま、着物の襟に手を差し込んで脱がそうとすると、それまで黙っていた彼が口を開いた。
「止めてくれと言っても」
「遅いよ」
「だろうな」
諦めたと言わんばかりに溜め息をつく彼に、どうして今まで何の抵抗もしなかったんだと問いたくなった。
だからまた胸元を探って、襦袢と一緒に色無地を脱がした。
外気の寒さからか、上腕には鳥肌が立っている。それを撫でると、ぴくりと震えた。
「嫌なら逃げて」
「逃げたら、お前、死ぬだろ?」
「死ぬわけ」
「死ぬだろ」
こんな小さな事で死ぬわけがない、俺はそんなに弱い人間ではない。ただ、あまりにもはっきりと断言されて少し戸惑っただけだ。
「だからって同情で抱かれるのかよ」
「違う」
「何が」
「違う………」
消え入りそうな声で答える彼が俺を拒否するまでは、と、その白い首筋を舐め上げる。それに感じているのか、肌がビクビクと震えた。柔らかいその肌に食い付くようにして、鬱血を残す。
ひとつふたつみっつと散らすうちに、唇は胸元にまで降りていた。
そのまま突起を口に含むと、彼が息を呑むのがわかった。
「甘い」
自分の口の中が甘いのか、彼のそれが甘いのか、今の俺達は酷く倒錯的な格好をしている。
唇で突起を挟んで舌で転がす度に、髪が揺れた。空いていた手でもう片方の突起に触れてやると、上から耐えるような甘い声が降ってきた。
「感じるの?」
「や…ぁっ……」
「気持ちいーんだろ?」
「そんな、や……あっ!」
声を出しても、本気で拒否をしない。むしろ求めるように足を絡みつけてきた。
「嫌、じゃない、よな」
まさかこれは自分の声だろうかと疑いたくなる程だった。低く熱を持ち、それでいて焦っているような、知らない男の声。
「よがってんじゃん」
胸元で遊んでいた手を滑らせて、着物を割った。脇腹を撫で、腿の付け根に指をやる。期待からか、それとも恐怖からか、震え続けている。
それでも涙を流したりはしていない、俺を否定することも。嫌だとも言わない、けれど好きだから抱かれるような雰囲気でもない。しかし同情ではないというし、俺が死ぬとも言う。(そして彼は自らを差し出すことで俺をここに引き留めていると思っている)
酷い矛盾だ。
どうして俺が彼を抱こうと思ったのか理由はひとつだったのに、彼は矛盾の中にいる。
「俺のこと、どう思ってる?」
問えば、見たことのない様な美しいく艶めかしい微笑みで答える。
「お前が俺を想う気持ちと同じだ」
「俺はお前を壊そうとしてんのに」
「俺も同じさ」
冷たい手が、頬を滑った。
「お前が壊れれば良いと思っているんだ」
矛盾と矛盾が重なれば真実になるんじゃないかと思っていた俺が馬鹿みたいだ。矛盾はいくら重なっても矛盾でしかなかった。
「もう、わけわかんねぇ……」
「俺は分かってる」
「何が?俺がお前を壊したい理由が?お前があんまり綺麗だからぐっちゃぐちゃにしてやりたいってことも分かってるってこと?お前、俺は死なねーのに死ぬとか言うし、何が分かってんの?分かってないじゃん」
まくし立てることが出来ず、ゆっくりゆっくり告げると、彼の手がパチンと肌を弾いた。
「お前の方が分かっていない」
叩かれた頬が、熱い。
「今のお前は何も見えていない。お前が俺を壊したいと思っているのも、俺がお前が死ぬと思うのも、簡単な理由だ。お前の生に執着する理由が、無くなったからだ」
「そんなことは」
「有るんだ、お前、先生が亡くなってから」
「同情じゃないんだろ!?」
それ以上聞きたくなくて、叫んだ。
「当たり前だ、」
そっと、そっと、声が降った。
「………、壊れて欲しいって」
自分はもしかしたら泣いていたのかもしれない。物凄い弱音があふれた。その弱さが気持ち悪い。
「ああ、お前が俺を壊すくらい、狂ったように俺を抱けばいいと、思ったんだ」
「な」
何で、と言う言葉は、美しいその唇に飲まれた。
「ん………っ」
「……っふ、…っ」
「ん……っあ」
とろけるような声を出す。2人深く口付けあう。角度を変え、舌を絡めて、咥内を舐めあった。
「好き、だ」
滲む視界の中ではっきりと顔は見えなかったが、きっと泣いていた。
何故って声が、震えていた。ただ、語るのがどちらの声かすら分からない。2人とも大切な観念の何かがどろどろに解けてしまっている。
何度も何度も咥内を舐め、吸うと、混ざり合った唾液が、口の端から垂れた。
「はっ、ぐっちゃぐちゃだな」
再び彼の頬に手を当てた。控えめに開いた唇からこぼれる唾液を拭うと彼はきゅっと目を瞑ってしまった。
目を開けろとは言えず、そのまま愛撫を続けた。熱い身体に唇を落とす度、彼は霰もない声を上げる。
下肢に手を当てた、瞬間これまでにないほど身体が揺れた。
「まだまだこれからなのに、」
今からこんなで大丈夫なの?と、耳朶を啄み、耳に舌を入れる。「いや、」と高い声が聞こえたがそれは本気の否定ではない。
そのまま数度性器を扱くと歯を噛みしめ声を耐える彼がいた。
「噛むな」
「ぁっう……は、んっ…!」
空いている手を口に突っ込んで、声を出させる。
その赤い舌が指を舐める、厭らしい。
濡れた指を引き抜いて、抱えるように抱きこんだ。それからそっと蕾に指を伸ばす。入り口を指で数度擦ると性器からどぷりと精液が溢れた。
「気持ちいい?」
「んっあ」
「良くないわけないよな、エロい声出てるし」
「ばっ………ぁっ!」
硬い蕾に指を入れると、可愛らしい声が弾ける。まだ一本、けれどゆっくり解すようにしてやわやわと回してやればあられのない声を出しながらキュ、キュ、と締め付ける。
「あ、っあ……んっ、く」
「もう一本………」
中指と人差し指をバラバラに動かすとぐちゅりと熱くて粘性のある液が増えた。
「……っぁあっ!」
「ここ?」
「やぁっ!」
性器の真裏に有るという、その部位をぐっと押してやる。一層良い声で跳ねる彼の肌が、一気に汗ばんだ気がした。
「前立腺きもちいーよな、わかるわかる」
「きさ、け……る……」
貴様経験があるのか、と言いたかったのだろう。目にいっぱい涙を溜ながら見上げてくるその姿、たまらない。
「あるよ、男との経験もね」
「―――ッ」
悔しさと悲しさとを足して割ったような顔で、見つめられた。
「何その顔…」
何が悔しいのか、何が悲しいのか、是非とも言葉にして教えて欲しいところだ。もしも希有でないのなら、それはとても嬉しい事だ。
「……ごめんね、」
今まで何も思わず誰かを抱いて、虚無を埋めようとしてきた。埋まらなかったから、彼に手を出した。汚れを知らない綺麗な身体に俺を刻み込んで汚して、満たされようとした。その全てに対して謝った。
けれど彼も俺を好きだと言ってくれるのならば。
「気持ちよくなろ?」
三本目の指をねじ込んで、責め立てる。入れた瞬間、驚いた顔をして引いてしまった腰を引き寄せて、動かした。
なんて熱い。こちらまで溶けてしまいそうな錯覚を覚えながら、止まらなくなった喘ぎに頃合いを見て。
「………ッァ!!」
指を引き抜いて、彼の身体を床へ戻した。
その顔の横に手を置いて、もう片方は自身の性器へ。猛ったそれに苦笑すら漏れる。まったく、お預けを喰らったガキじゃぁあるまいし。
それでも余裕が無かったのは事実だ。
「入れるよ」
「え、ぅ、ぁ……っ!」
短く宣言して、熟れた蕾へと性器をつける。
「息吐いて」
「えゃ………あっむりぃアッァ…!」
女の喘ぎよりも色めかく、中は熱い。
「さいこ……」
「あ、ぎ、あっ…ぅ」
彼は、初めてだろう。
だから優しくしたかった(けれど理性は飛んでしまう)(壊してしまえと耳の奥で五月蝿い)(彼の喘ぎが微かにしか聞こえない程だ)
ゆるゆると動かしていた腰を強く動かすと、彼の声が近くはっきりと聞こえた。どうせなら抱きついてくれればいいのに、彼の手は横たわる布を掴んで離さない。
口付けて、声を抑えさせて、苦しむ声で優しさは消えた。
「んっあぅ……んん」
「……ッは、」
名前を呼んで良いのか。迷った。彼は昔からヅラで、それ以外に呼んだこともなくて、けれど今の彼をその名で呼ぶのは躊躇われた。人形のように綺麗で、けれど動かないそれよりも美しい彼の名は。
「こた、ろう…」
「!」
きゅ、ときつく中が締まった。持っていかれる錯覚に、熱が高まった。
(きっと待っていた、この感覚を)
「小太郎っ、」
「ぁ…は、やっぅ…!あぁっ!」
頭を大きく振る彼を押さえつけて、彼が一番良く鳴く所に何度も打ちつけた。早くなっていく律動を止める術など知らない。熱い熱い熱い、身体が熱い!
一心不乱に彼の乱れる声を聞きながら、快楽を上り詰めさせる。片手で彼の性器を激しく扱く。
「は、っあ、――――ッァアッ!」
一層強く扱いた瞬間、喉を仰け反らせて鳴いた彼の性器からは白濁が飛び散った。瞬間的に緊張した臀筋が自身を締め付け、あまりのそれに達してしまった。
「あつ、い」
繋がったまま、数度揺らすと彼はぽつりとそれだけ言って、すっと眠りにと落ちていった。
確かに熱い。めったに汗をかかない彼の額にはふつふつと汗のつぶが浮いているし。同じように自分も背中から腰までべっとりと張り付いた着物が鬱陶しい。汗が酷い。この汗と共に、涙や、虚無感や破壊衝動が流れていけばいい。
「お前だけなんだ」
このどす黒い感情を理解してくれるのは。
「お前だけなんだ」
俺から離れないのは。
「好きなんだろ」
俺もだ。
ぶわり、あふれたのは涙。彼の肩に顔を埋めて泣いた。
(残ったのはお前だけ)
(理解者もお前だけ)
(放してなるものか)

(ああ!腕の中で壊れてくれよ!)

甘いお菓子で夢みたい3Z 銀桂 バレンタイン

赤い舌が裏筋を這う感覚に、身体が震え、力が抜けた。
がくん、と崩れた膝。瞬間的に支えてくれなかったならば、俺は彼の方へ倒れ混んでいた。彼が一動する度、こちらも一動してしまい、もたれかかった古いガラス戸の資料棚がガシャガシャうるさかった。
口いっぱいに詰められていたチョコレートは、口内の体温で解け、飲み込めないまま口の端から垂れた。甘過ぎて吐き気がする。
「ん、んんッ」
「そ、声は我慢して…」
「っや、」
ぬる、と粘膜と、人間の体温ではない何かが塗り付けられたのがわかった。多分答えはひとつだ。
「甘……」
れ、と舌を出して性器を舐めて、上目でこちらを見つめてくる彼の視線に耐えられず、身体が崩れ落ちた。座り込んで資料棚に背を預けて天井を仰ぐ。ああ、なんでこんなことになった。



(だって、バレンタインだし)
その一言が始まりだった。
普段モテないモテないと嘆いているくせに、どこから貰ってきたか知らない大量のチョコレートを前に彼は笑っていた。
(根本的にバレンタインを履き違えてるんですよ日本人は)
(でもお前も日本人だから順応性あるよな)
証拠にほら、と学ランのポケットから盗られた箱は間違いなく俺から彼へのプレゼントだ。なんて鼻が利くんだろう、と呆れにも近い眼差しを向けていると、彼はクスクス笑いながらその箱のリボンを解いた。
簡単な料理しか作れない、普通の男子高校生に手作りチョコレートを求める方がおかしいのだが、彼は何度も手作りを押してきた。結果で言えば作らなかったのだけれど。
それでも彼の口に合うように、高級なそれを選んで買った。一粒500円以上?自分じゃあ絶対に買わない。
「…手作りじゃない」
「そんな器用じゃないんで、失敗するよりはましかと思って…」
「失敗作でもこう、努力のあとが見たかった…」
「いらないなら捨ててくださいよ、じゃあ、僕はこれで帰ります」
ふてくされた訳ではないが(いや、ふてくされていたのかもしれない)居たたまれなくなったので帰ろうとした。しかし瞬間に腕を引っ張られ、後ろへぐらりと傾いてしまった。そのまま先生へダイブ。
がしゃっ、と音をさせて資料棚に肩をぶつけた。彼が支えてくれていなかったら肩どころではなかったが。
「いった…」
「大丈夫?」
「痛いです…」
「見せて」
それは本当に瞬間的な事で、あんまり素早いそれに反応が出来なかった。キスに気を取られていると、すっと下腹部が冷えた。スラックスと下ろされたのだ。
「先生、せんっ……」
「黙って」
こんな場所で性器を晒すことが嫌で、彼を呼ぶ。しかし唇に指が当てられてシィーっと微笑まれた。そのまま彼の手は器用に動き、チョコレートの箱から引き抜いたリボンを俺の手に絡め、笑った。
「え」
きゅ、と縛られて、手の自由が効かなくなった。同時に彼の頭が下腹部に下がる。
「ちょっ…センセ…」
性器に近付く顔を引き離そうとして、手首で縛られた手では引き離せないことがわかった。彼は無駄に力が強い。あっという間に片手で腰をホールドされた。もう片方はどこに行ったんだと視線を辿ると、山積みになったチョコレートの箱から中身だけを器用に取り出していた。察しが良くて、自分の不利を先に知ることは良くあった。今、まさにそうだ。それをどうするつもりですか、とは聞けず、見ているしかなかった。
「うま」
チョコレートをいくつか口の中に放り込んでご満悦な様子の顔を黙って見下ろしていると、彼はグイッと顔を上げ、ゴクリ、と喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。上下に浮いた喉仏に興奮してしまうのは、彼の男としての部分を見せつけられたからだろう。
堪らなくエロティックな光景だと思う。思わず息を飲んだ。そんな俺にかまうことなく彼はひとつまたひとつとチョコレートを口に運んでゆく。長い指が、赤い舌が、ゆっくり、動く。
「――ハ、ッ」
陸に上げられた魚のように、息をするのが精一杯で、けれど消えかけたその息、それは一気に戻ってきた。
「…あッ!せ…んッ!」
性器を口に含まれて、焦って腰を引く。ガシャ、派手な音がしたが彼は気にも止めない。しかも口の中にはチョコレートだ。生暖かい口の中、唾液ではない何かが絡みつくのがわかる。初めての感覚に酷く感じる。
「せんせいっ!」
彼のふわふわの髪に手を乗せて拒否をする、けれどその拒否には全く力が入らない。窓の外からは部活の音が聞こえてくるのに、この空間には淫靡な空気が漂っている。ああ、なんて倒錯的。
「……んっ!?」
ぼんやり、けれども確実に感じていると、口の中に突然何かを押し込まれた。甘い、チョコレートだ。
最初はその甘さが良かった。けれど次々と入れられるそれが息苦しい。溶けていくそれを飲み込もうとすれば、快感を与えられて上手く飲み込めない。
チョコレートは媚薬だと言うがこれはいただけない。あんまりに強い香りに倒れそうだ。口の端から零れた、唾液と混じったそれを彼の指が拭う。
未だ、下腹部から離れない顔を見下ろせば赤い舌、思わず膝を折る。
支えられて、それでも力の抜けた半身は重力に抗えず。
刹那、彼の体温より幾分低いものが腿の付け根に触れ、思わず下を見た。付け根から、移動する、それ。
「甘……」
目があった。反らせない。体が崩れ落ちた。座り込んで資料棚に背を預けて天井を仰ぐ。ああ、なんでこんなことになった。
「だいじょーぶ?」
ニヤニヤ笑う声がする。この際ずるりと何かを啜った音は聞こえなかったことにする。
「っんむ……」
唇を奪われて、咥内のものを啜りとられる。抗えないのが悔しい。縛られたままの手は、彼の首へ回した。
指が後孔へ当てられたのがわかる。もう腰を引くこともできない。風邪をひいて熱を出した時のように熱く火照った中は、その質量、いや、それ以上を求めている。
指が一本入ってきた。中を数度掻き回すともう一本が入ってくる。チョコレートと精液が混ざったそれを塗り付けられて、気持ちが悪い(が、気持ちいい)
「も、くださ……せんせぃ……っん!」
「声は?」
指が一気に抜かれて思わず叫びそうになった。しかしそれは口内に突っ込まれた指によって遮られた。それから優しい声で聞いてきた。
俺は涙を目一杯瞳に貯めて、懇願する。
「声おさぇ…ま…、から、ぃ…かせてくださ…アァッッ!」
「ん」
短い返事と、瞬間的な圧力。彼のものが入ってきたのがわかる。思わず息を呑み、震えながら吐き出す。
「その誘い文句、最高だね」
快感に奥歯が鳴る。
彼が動く度に内壁の奥の奥から快感が引っ張りだされて、必死に押さえる声がどんどん意味をなくしていく。
肉と肉とがぶつかる音と、水っぽい音と、自分の声と、先生の息とが混ざって、もう何も考えられない。
「ひゅ……ぁうッせん…ああぁっ」
彼の手が突然俺の性器に触れた。あまりに突然の事に焦って身体をよじろうとすると、そんなことはさせないとばかりに激しく扱かれた。
「かつら……っ」
低い甘い苦しい声で名前を呼ばれた瞬間、激しい吐精感。抗うことなど出来ない。一気に精を吐き出すと太股が震えて、下半身から力が抜けた。けれど彼は動きを止めない。
「!せん、や、ぁ、!」
どくんと中に熱いものを注がれるまで揺さぶられてて、一度収まったはずの快楽が再び芽を出した。
「ぁ……」
物欲しげに舌を出して誘ったら、彼はそれに絡めてくれた。
「積極的だね」
「手…外してくれたら…」
もっとすごいことしますよ?
と、息も切れ切れに誘いをしてみる。いつもより乱れているのは食べさせられたチョコのせいにしてやろう。
息を整えているとするっと手首の拘束が解けた。白く変色してはいるが、そうきつく縛られていたわけではなかった。むしろその手に感じる緩やかな痺れは快感で。
(変態か俺は)
「…ああもう、お前は」
先生が悩ましげにつぶやく。自由してくれたということは、彼も少しは期待してくれているのだろうか?そうであればいい。そうであってほしい。

ねぇ先生
「バレンタイン、なんでしょう?」

抱き締めたその肌が凍るまで側に居ると君に誓って坂高 だそれだけのことですよの続き

その笑顔が消えても、彼に近づけるだろうか。と、無表情な俺は考える。


ただの教師のくせにこんなデカくて良い場所に住んでるなんて、と、勝手に羨んでみた。この部屋は無駄に窓が広い。そこから入ってくる眩しい朝焼けを見るはこれで何度目か。
昨日の名残で身体がだるいが、隣で横になる彼の方へすり寄ると、するりと手が伸びてくる。
「おきちゅう?」
「……………ああ」
機嫌の良い声が聞こえる。といっても彼の機嫌の良さは毎度のことだから、彼が不機嫌な時がわからない。
きっと不機嫌な態度をされたらされたで俺はショックで打ちのめされてしまうだろうから、いつも笑顔で誰も嫌ったことのないような彼は好きだった。
しかし半面、不安でもあった。
笑顔の彼が俺に見せてくれているのは本心であって本心ではない。せめてその笑顔が剥がれる時がたまにはあってもいいじゃないか、と。
俺たちは生徒と教師という間柄で、男同士で、少し変わった性的嗜好を持っている同士で。それでもこうした関係で居られるのはお互いに好きだから、の一言に尽きるだろう。(ああでも、愛のないセックスが何処にでも転がっている)(だから不安になる)
彼はいつだって笑顔だ。だから真剣な眼の彼が見たかった。(けれどそれを見ることが怖かった)
(馬鹿め。なんて矛盾だ)


吐き気がする。まるでオーバードーズをした時のような、胸からこみ上げるような吐き気。
耐えなければならない。ただでさえ清廉高潔であらねばならない聖職者の立場を犯して、また、ノーマルという規格からも外れた自分が。
「……ッ、」
めちゃくちゃに、彼を犯したい、だなんて。
(しては、いけない)
けれど、
(熱い……)
「…ッ晋……?」
「んあ?」
「盛ったな?」
「バレたか」
異変は夕食の後。少し酒が入っていたとはいえ、異常に熱かったのに気付いたのが最初。徐々に傾いていく性欲が、こみ上げるような吐き気と共に増していく。湧き上がる、その破壊衝動。
「こりゃあちくと強い…」
「ギリ合法だぜ?」
「こんの不良が……」
「なんとでも」
それでも笑って誤魔化そうとした。笑顔がひきつっているかもしれないと心配にはなったが、この余裕のない中ではよく耐えていると思う。
彼から離れればいいか、そう思った矢先にするりと、彼の腕が首に回った。
「晋、いかん」
触れられた部分が熱い。押し倒してしまいそうだ。自制心が効く内に、何とかしなければ。
「何がいけねェんだ?」
「おんし……いッ」
首に噛みつかれた。犬のように歯を立てて。その痛みに目を瞑ると、瞼に柔らかく唇が落とされた。
「あんたの本気が、みたいだけだ」
目を開けた時彼は笑顔だったが、その声は少し悲しげだった。


本当は、彼が己の全てを欲していると知っていた。けれど全てをさらけ出したら彼は離れていってしまうかもしれない。そう考える臆病なこの心が憎い。考えれば考えるだけ、制御していた感情がくっきりと輪郭を見せ、浮かび上がってくる。悔しいがこれは負けを認めざるを得ない。
「……っ後悔、するぞ」
もう笑顔も作れない。ゆっくりと視線をあわせると、彼は首を横に振って微笑んだ。
「誰がするか」
あんまりにもはっきりと語られたそれに、プツリと糸が切れた。
普段から丁寧に触れようとして、その通りに抱いてきたが、今日は全く抑えが効かない。どれだけ強い薬を盛ったんだと内心で苦笑しつつも、嗜虐性を持った脳がその思考すら犯していく。
酷くしても良いと、彼は言った。ならば純粋な思考など壊れてしまえ。ああ、君をめちゃくちゃにして食べてしまいたい。(それはカニバリズムにも似ている)
抱きついていた彼の首の後ろを手刀で叩いた。フッと意識が飛んだ彼ががくりと重くのしかかる。悪いとは思ったが、とろけた理性に手が言う事を聞いてくれるはずもない。その引き締まった筋肉を覆う若い肌の、腹から胸、脚まで六角形に麻縄を巻き付け縛る。正直縛るのは女の方が綺麗に映えるが、彼という存在に縄をかけたと言う事が酷く好かった。
両手を一括りにしてベッドの上で、足は開いて両サイドに縛った。それから意識を戻させる。彼が目を開けるまでの、眉間に皺を寄せた、苦しげな表情に恍惚とする自分がいる。
「は……すげーよ、アンタ」
目覚めた彼が状況を理解し、発した一言目がそれだった。心中でアブノーマルを求めたのはそっちだと唇を舐めた。
「思っちゅう事言えるのは、今のうちぜよ?じきになんも分からんくなる」
「……盛ったのか?」
多分、苦味のある口内で気付いたのだろう。無視し、彼の腹に手を置いた。彼は無言だったが額に汗が浮かんでいる。盛られたまま触れられるのはさぞかし辛いだろう。まあそれは自分にも言える事だが。
「ちくと、激しくいこうかの」
それでも冷静を装うのは意地だ。
「あ、く趣味っ…ッ」
「それはおんしの方じゃ」
「……あッ、あ!」
そろそろと腹から指を胸へと這わせ、すぐるよう胸の突起を弄ってやると歯を食いしばる程度では抑えきれない喘ぎが漏れた。その甘い声を漏らさぬよう、口付けた。深く舌を差し込んで、彼の舌と絡める。互いの唾液を交換しながら、手を下肢に持っていくと、口の中で声が漏れた。
「ふッ…ぁ…さか……」
じゅっと舌を吸ってやると彼の目尻から涙が溢れた。感じすぎてツラいのか。なんて面白い。
「……ぁ……」
唇を離すと、名残惜しそうな声で求めてきた。酷く可愛らしい。
仕方ないから、と、もう一度口付けてやる。口の端からは唾液がだらだら溢れて、首まで濡らしていく。
「んッ……アッ」
唇を放す度に彼の口から漏れてくる声が脳を揺らす。薬のせいもあるのかいつもよりも感度は良い。従順であることも好かった。
幾度も角度を変えながら、ひたすらに口付けを交わす。キスをしている間は彼も気付かないだろうと、サイドテーブルに片手を伸ばした。そこにあるのは数本のヘアピンと、長い針。ああ、どちらにしよう?と、うっとり考える。(欲望に忠実だとこうも面白いのかと心の奥で笑ってしまう。)
「痛いのと気持ちいいのと…どっちにしようかの」
「どっ……ち?ッ……は、っあああっ!?」
結局答えを聞かず、まだ半勃ちの彼の小さな穴にぐぷと針の尾を差して弄ってやった。
「――ッ!」
「きもちええか?」
ああ、そんなの聞くまでもなかったか!と、針をぐるりと回す。叫びのような高い声が、鼓膜を揺らした。
「うああっ!さか、っあ!やめ……ッ!」
「辰馬、」
呼べるだろう?と、小さな子供をあやすように笑いかけるが、涙を流して首を振る彼にはもう何も見えていないようだ。彼が大きく揺れる度に、身体に巻き付けた縄目が擦れて赤くなっていく。彼のペニスは既に完勃ちになっていて、針が全て入ってしまいそうだ。
もう少し長いものにしてやろうかとずるりと針を抜くと、彼は身体を震わせ、また声を上げた。カテーテルか、ああボールペンの芯でも良いかもしれない、彼が喜んで、喜がって、泣いて、縋って、壊れれば何でも良い。
「はは、」
もう乾いた笑いしか出来ない。
消えていく理性の中、カテーテルを掴んで、彼のそれにそろりと入れた。
「あっ…やっ…め…坂本っ……!あぅ!」
ゆっくりと入っていくそれを見て気持ちが高ぶる。彼は初めての事に肩を震わせながら、何度か大きく跳ね、鳴く。
「んんっ!やっ!あ!」
ぴろりとペニスから伸びた管のいやらしさといったら、もうたまらなく熱が上がるほどで、思わず唇を舐めた。
「ぬ…け…ッ」
「何を?」
ク、と、喉奥で笑い、その管を掴んだ。二、三度出し入れすると言葉は気丈なまま懇願してくる彼が居た。
「それを、抜けっ…!」
「ああ、これか?」
ずるっと一気に引き抜くと、彼は苦痛か快楽かわからない顔で息を飲んだ。背筋に走る快楽は嗜虐性を孕んで、何度も押し寄せてくる。
もう一度カテーテルを差し込むと、先程よりスムーズに奥まで入っていった。このまま少し楽しんでおこうと思って、瞼に唇を落とす。
「我慢しとき?」
息をつく間も与えずに後孔に指を這わせて、数度撫でる。後ろまで伝った先走りを塗り付け、本当に少しずつ指を進めていく。ぬちぬちと耳障りな事だ。苛ついて指を一気に入れた。瞬間的に彼が痛いと声を上げた。
「いっ…」
「ああ、すまん」
まるで謝っていない、いや、謝るつもりなど、ない。
もう一度サイドテーブルに手を伸ばしナイフを取った。狂気に満ちた目を見たのか、彼の身体が一気に硬直した。
(その怯えた眼が好い)
ブツンと、両手と両足の拘束を解いてやった。彼は驚いた顔でこちらを見ていた。
「ほれ、晋?」
ぐっと腕を引いて、身体を起こさせた。バランスを崩した彼がどさりと倒れ込んできた。
「おんしがしてくれるかの」
額に小さくキスを落としてやると、あ、と唇が動いた。下半身の熱を彼に擦り付けて数度揺すると、歯を食いしばりながらも喘いだ。そろそろ身体が辛いのだろうなぁ、と他人事の様に思って、彼の身体を絞める縄をまた一層絞めた。
「アッ…あ…さかもッ……ッ!」
首を仰け反らし、名を呼んでからまたばたりと肩に顔を埋めてしまった。
「ほれ…早よせんと辛いままじゃ」
「ンッ…は…ァ…」
ゆるりと肌を撫でると、彼は緩慢な動きで腰を上げた。目にいっぱい涙を溜め、細かく震えながら、必死に身体を上げ、片手で自らを慰める姿に酷く興奮する。
すぐにグチ、ヌチャ、と粘液が混ざる音がしてきて、彼はアア、と大きく息を吐いた。(気がした)
「さ、や、あ…ッ、たつまッ!!、」
「おお、ようやっと呼んだか……ご褒美、やるきに」
「はッ……ああああぁっ!!」
猛った自身を宛てがってその腰を引き落とす。彼の喘ぎは痛々しいものだった。
「は……きつい…」
「っ…く…俺の、が」
「黙りィ」
そそり立った熱棒をギュッと握るとまた痛みを訴える声が聞こえた。
「上手に動けたら離してやるきに」
「やっ…ぁ…」
「ほれ、晋?」
「あぅっ!」
ぐっと一度だけ突き上げると、全身を震えさせた。肉棒を握った手に付く精液が増えていく。
「晋…」
「――む、りっだ…!」
「お強請りは?」
「はっ…あッ動いて、く……れッ!」
「んー、及第点ってとこじゃの」
「…ッア!」

言い終える前に突き上げて、彼の敏感な部分を探る。急所を握っていた手は緩めて、柔らかく揉みしだく。指先で先端をいじってやれば良い声で鳴いた。突き上げる度にあられもない声を出しながら、それに耐えようとする彼がたまらなく愛おしく、反射的に唇を奪っていた。
息もさせぬほど激しく舌を絡める。肌と肌がぶつかり合う音と上からも下からも聞こえる淫猥な音が混ざって、ぐちゃぐちゃになっていく。真っ白になってしまえばいいのだと、一番感度の良い部分を何度も攻めた。
「……あ、あ!」
彼が限界だと訴えて、細かく身体を震わせた。こちらもそろそろか、と腰を早め熱を起こす。
「…あっ…っあ!!」
ガッと強く深く、猛った己を突き立て、一気にカテーテルを引き抜いた。
「ああああぁっ!」
彼が射精するのと共に、こちらも奥深くに熱い子種を注ぎ込んだ。ああ、このまま何度も犯したら孕んでくれないだろうか。
だなんて、思ってみたりして。
未発達ではないが男と呼ぶにはまだ未熟。そんな彼の綺麗な身体に自分を刻む事の恍惚といったら!
「辰、馬」
はあはあと方で息をしながら彼は口付けをせがんできた。
それに答えるように唇を合わせると、すぐに激しいものとなる。
「はっ……んむっ……」
「…晋っ……」
「な…また…っやめっ!」
「仕方ないじゃろ、まだ収まらんき…盛ったおんしが責任とりぃ」
「んな…ぁ!」
ガッと腰を打ちつけると、きつくと抱きついてきた。こちらも足を彼の腰に絡めてバランスを取り、放っていたナイフをもう一度手に取った。
「ッ!?」
その冷えた金属をひたりと背中にあてると、彼は一瞬で理解したらしく、息を飲んだ。
「安心しい」
縛り上げていた縄を切る。
彼を拘束するものが自分だけになったことに満足しながら、その背中にそのままナイフを滑らせて、薄く皮膚を切る。
「…?」
ほんの少し血が滲む程度の戯れなど満足感は皆無に等しい。が、今は、これで良い。
「……ッ」
その傷に爪を立てる。それでさえ感じているのか、彼は苦しさに涙を流す。
「好い、か?」
下から揺さぶって、弱い部分を擦る。一度精を吐き出したからかスムーズに動く事ができるが、それでも彼の中はキツく締め付けながら誘ってくる。
「っは、あっ、あ!あ………もっ!イッ…」
「ふ、好きにイキ」
「や、あ一緒が…」
その瞬間に心臓から全身に血液が流れた。なんて可愛い事を言ってくれるのだろうか、と。ぐらぐらと血が煮えたぎってもおかしくはない殺し文句だ。そのまま性器をしごいて、抉るように数回突くと、彼の爪が強く背を掻いた。
「っく…」
「――――ッあああっっ!」
痛みに、強く抱き締めると、彼は声を上げて達した。それにつられて最奥に精を吐き出すと、彼はくたりと倒れ込んできた。
「は…、はッ…」
苦しそうに早く浅く息を吐く彼の背についた赤い筋に手を這わせ、強く爪を立てた。優しくしたいと思う気持ちと酷くしたいと思う気持ちは正反対のようで紙一重だ。
「っは…ハッ、さか…」
浅く息を繰り返す彼の背をさすってやりながら、耳元に唇を近付ける。
「ほんまはの、晋助」
「ん……?」
「薬の効き目はすぐに切れゆう」
彼の身体ははっと気付いたように身体が動いた。と、同時に声が漏れた。中にまだ入っているから仕方はないが。
「いつか本気で腹上死させてしまうかもしれんの」
あはは、と彼の嫌いな笑みを見せながら言う。総てを受け入れてくれないのなら、離れて行けばいいだけのこと。(けれど離れて欲しくなどない)(この矛盾が苦しい)
「は…ッ、心配すんなよ」
彼は眉を潜めながらも顔を上げた。
「この手で、死ねるなら、本望だ」
「そりゃ」
「俺が、嫌いになることは100%ねぇよ」
「どんだけ酷うしてもか?」
「酷くしてくれた方がやりやすいんなら好きに抱きゃいいんだよ、ウダウダ考えんなよ大人の癖に」
「大人やから考えるんじゃ」
「面倒くせぇな」
彼はそう言って身体を浮かせ、繋がりを解いた。そのままベッドに沈み込んだ彼に覆い被さると、手をとられた。
「     、  」
聞こえたようで聞こえなかった、その言葉は確かに愛だった。

(でなきゃこんなにも涙が出るはずがない)

※※※現代パラレル 高杉×坂本♀


今になってはどうしてこんなことになっているのか、理解など出来るわけもない。ただ、そこには恍惚とした快感だけあった。(だから止める気など無い)

自分より背の高い頭を引寄せてあてた唇は、女特有の柔らかさを持っていた。はじめは、触れただけだった。それでも良いと思った。けれど、俺の肩に置かれた手が「もっと」と言っているような気がして、止められなかった。
だから、一度唇を離してから、再び口付けた。今度は、下唇を啄む。それから、舌で、唇を舐めた。
一瞬だけ口紅の味がしたが、それまで甘く感じる。辰馬は一瞬だけ身体を震えさせて、止まった。もう一度、唇を離す。
腫れぼったく濡れたそれが筆舌尽くし難い色気を醸しているのにくらりとする。
「舌、」
視線をあわせて短く告げると、辰馬は気まその舌に、自分の舌を寄せる。
一度小さく吸い付いて、ちゅ、と音をたてて放した。
それを数度繰り返すと、耐えられないというように、肩に置かれていた手が頭に回わり、同時に再び唇同士が触れ合う。そのまま舌を割り入れると、辰馬はすんなりと受け入れた。人間の体温は暖かいと言うが、その中は熱いほどに熟れている。
「……っん…」
鼻から抜ける甘い声が、ふと性欲に火を付けた。
上顎から、頬の内側、歯列の裏まで舐め尽くして、舌を吸って、絡めて、唾液を交換しあう。
辰馬も糧が外れたらしい。何か別の意思を持った生き物のように動く舌が、もっと、とせがんで止まない。
可愛いだとか、そんな感情よりも、情動的な性欲に流された。自らの手はいつの間にかそのくびれた腰へ回り、シャツを捲し上げはじめていたし、もう片方の手も、スカートから伸びる足へと場所を変えていた。
「ちょっ…晋っ…」
その変化に気付いて、辰馬が一瞬の拒否を見せた。けれどそれをまた唇で塞いで、舌をあわせてしまう。
そのまま軽く腰を自らに押しつけるように力をかけると、辰馬は今までのような否定を見せず簡単にこちらへと体重を預けてきた。
その状態で、再び触れるだけの軽いキスをする。子供の遊びはもう終わりだと告げるようだ。捲り上げたシャツとスカートが、視界に入る肌色を増やす。普段から見慣れている筈の顔も身体も、この時だけはひどく違って見える。
「辰馬……」
耳元で名を囁くと、顔を背けられた。そのまま頬にキスをして、舌を出す。
頬から、顎へ、首へ、舌でなぞり、首でひとつ所有の証をつける。
「…っ」
「もっとか?」
答えを聞かず、もうひとつ痕をつけた。
息を詰まらせる仕草が、とても綺麗だったのを鮮明に覚えている。
服の上から、その豊満な胸を舌でなぞりながらぷつ、とシャツのボタンを一つ外す。ゆっくりと、もう一つ。片腕を背中に回して邪魔くさい下着を取り払おうとすると、辰馬がそれを制止した。
「このままっ……ん…」
真意はわからなかったが、どうやら着衣したままがご所望だったようだ。しかし全てを堪能するには下着など邪魔である。しかしそれが希望ならば、とパチン、とブラジャーの下を弾いて手持ち無沙汰なのだと嘆いてみる。それでも舌は着実にその膨らみをなぞり、頂点に歯を立てる。
「あっ」
小さな声をあげ、身体をビクつかせた辰馬の下腹部にズッと自らを擦り付ける。
「今からこんなじゃ入れらんねぇなぁ…」
くっと喉の奥で維持悪く笑うと、目に涙を溜めた辰馬が、声をあげた。
「ゃ…めないでっ」
そのままぎゅう、と抱きつかれたが、俺の顔は丁度その胸の前。息が止まりそうになる。
仕返し、というよりも自らの身を守るため、辰馬の少し浮いた腰にまとわるスカートと下着を一気に下ろした。案の定、驚いた辰馬が手の力を緩め、息が出来るようになった。どうせならついでにブラジャーも取っ払ってしまおうと、慌てた様子でいる彼女のそれを引きずり下ろした。
「ハッ、もうぐちょぐちょじゃねぇか……ああ……濡れてんの知られたくなかったのか?」
すぐに、手を何も纏っていない下半身へ伸ばし、指で掬うように中を混ぜると、ぐちゅりと淫猥な音がした。その事に対して維持悪く、というよりも攻め立てるように声をかけると、くっと息を飲んだ辰馬が、真っ赤にした目でこちらを見つめてきた。
「挿(い)れて欲しいか?」
「ッ………!」
視線をあわせたまま、れ、と舌を出して胸の突起をつついてやり、問う。答えなどわかりきっているが、その口から欲しい。
「なぁ」
「っあッ!!や…しんすけぇっ…ちょうだぃ…っ!」
ぐり、と舌で強く押して口の中で転がして弄んで。
欲しいなら自分でシて挿れられるようにしてみろ、と笑いかければ、その目からボロリと涙が溢れた。「あーあー、悪ィ、泣くな、」
あやしながら、自身を擦り付けて、音を立てる。
その音が嫌だと言うように頭を振る辰馬の腰を再びぎゅうと抱き、少し浮かせる。
そのまま入り口に宛がい、腰を支える手を緩めた。重力に逆らわないまま、身体を繋げていく。
「あっ…!あ!晋っ助ぇ…っ!!」
「…くっ…」
もう何度か抱いたことのある身体ではあるが、いつも処女のようにキツいその中は熱く、気をぬけばぐっと持っていかれそうになる。耐えるように耳元で吐息を漏らすと、辰馬が嬉しそうにキスをしてきた。
「っ…んっ……」
「ハッ、中…絡み付いてきやがる…」
「やっ!ふっ…」
少し言葉で責めると、嫌だと拒否をするようだったのでその唇をすぐに塞いだ。徐々に激しいキスになるにつれ辰馬の身体が脱力し、自重でより深いところへと誘ってくる。一度突き上げるようにしてやると、唇を離して高く鳴いた。
「んっ、んんんっ!はぁっ!あっ!」
激しく打ち付ける度に溢れる液が、つ、と太腿を伝っていく。もう汗だか体液だか精液だかわからない。酷く、気持ちがいい。
そのまましばらく快楽を追い、腰を進めた。溺れる様に口付けながら、漏れる喘ぎ声を頭の隅で聞いていた。
「アッ…んっ…晋っ、も、う……」
「っあ?」
「イク、か、らぁ……」
「ん、俺っも」
しまった、少し甘かったろうか、とサディスティックな考えが頭をよぎった。けれど辰馬がいっそう強く足を絡めてくるので、もうそれ以上は考えなかった。
「ああああっ!」
辰馬が大きく声を上げ、ぐっと喉を反らす。
登り詰めた瞬間に短く息を吐くと、ギュッと中を締め付けられた。
そのまま震えと共に中に精を吐き出した。身体から余計な力を抜けたせいか、余計に深くに繋がったらしく、辰馬は小さく声を漏らした。
「っあ……」
「中に入ってるの分かるか?」
孕ませてやりてぇよ、と反らされた顔に手をかけて笑ってやりながら赤く染まり潤んだ瞳と目をあわせ、入ったままの腹を撫でる。
一瞬顔を歪ませた辰馬の耳元で「もう一回いくか?」と囁いた。しかしフルフルと首を振るので、何も言わないままに首にがぶりいてやった。
赤く移った歯形にゾクリとする。(自らでつけた筈なのに)
その痕を舐めると、辰馬の身体が少し震えた。その震えに、入ったままだったものが反応し、硬さを増すそれと共に性欲が再び沸き上がる。
「悪ィな、もう一回だ」
笑いながら今度は違う風に、と押し倒してやった。形勢逆転だというように、上からのしかかってもう一度腹に手を当て、今度はぐっと圧してやった。
辰馬はその衝撃に辛そうな顔をしたが、すぐに快楽を求める目で見つめてきた。
おまえも物好きだな、と口の端が歪んでしまってしょうがない。
(そうだ、始まりがなんであったかなど、忘れてしまえ)
(互いに溶け合えばいいだけだ)

抱いて抱かれてそれでも満たされない理由銀桂

もう腰が立たない、抜け、と言ってやりたいのに喉はからからに枯れてしまっていて正しい音にもならない。
汗と体液とで濡れた布団にうつ伏せた身体は、そろそろ疲れたと倦怠感で主張するが、深い所を突かれる度に、まだ快楽を求めるように締め付けた。
「……っく…!」
頭上から、低く呻く銀時の声が聞こえたのと同時に、桂は中に熱い精液が注がれたのを感じた。声が出せていたなら名を甘く呼んで囁けたが、生憎、声は出そう
にない。
「あー……、休憩ー」
ドサリ、銀時は桂に覆い被さる。肌と肌とがぴたりと触れ合うと熱くて仕方なかったが、それでも桂が嫌がるような素振りは見せなかった。ただ、乾いた喉で咳
をして、肩をひねって男の方へ顔を向けた。水が欲しいと主張したかっただけだったのだが、銀時はその真意に気付かない。
「何?もっと?」
ふるふると首を横に振るが、その意見は却下だというように唇を塞がれた。
不安定な体勢が苦しくて、桂は自ら体勢を変える。結合部からの濡れた音と、内壁を擦る感覚に一瞬眉を寄せたが、それもすぐに唇と舌で解かされてしまった。
「ふ…ぁ」
苦しい、けれど、欲しい。
乾いていた桂の口内を濡れた舌が潤していく。
「んっ…あ……」
肺の底から息を吸い、一気に吐き出す。その声は艶めいて恍惚的であった。
「誘ってんの?俺限界なんだけど……いや、頑張るけどね、新しい境地開いちゃうけどね」
「馬鹿か……っ」
「ヅラもまだいけるだろ?」
「ヅラじゃな…あっ、俺はも…っ……!」
「いやいや、まだ若いっしょ」
「やめっ……んっ、銀っ……!は……んっあ…」
抜かないまま腰を振られ、突かれ、頭が真っ白になっていく。桂は甘く声を上げ続ける。否定の言葉も全ては快感のせいだと知っていた銀時は、その小さな蕾を
犯し続けた。
「…あっ…あっ…ぎんときぃっ………」
「ヅラッ……」
(名を呼んで、口付けて、まるで恋人のようだと互いに錯覚させて)
桂はきつく目を閉じた。
(いつか本当の恋人になれたなら、などと)

『愛している』と囁く声は坂高 高杉死ネタ

陽のよく当たる一室に、布団が一組敷いてある。真新しい畳の上には使われなくなった煙管の盆が黙って座っている。共に、高杉の姿もあった。
布団の上。半身を起こした高杉は、静かに本を読んでいた。障子を通した柔らかい光は暖かい。
(それは、初夏のことだった)
聞こえるのはほんの少しの鳥の声と、隣の林が静かに鳴る音だけ。しかし遠くから、その部屋に近づいてくる足音があった。その足音はゆっくりと、けれど確実に部屋へと近付いて来ている。高杉はその音に気付いて、本を閉じた。
「……高杉?起きとるがか?」
「ああ、起きてる」
障子の前で止まった足音が柔らかい男の声に変わる。高杉がその声に答えると、スラリと障子が開かれた。
「今日の調子はどうやき?」
「ここずっとなかった位いい」
微笑を絶やさず高杉に質問をする男は坂本と言った。坂本は布団の横に腰を下ろすと、どこかぼんやりとした顔の高杉の額に手を触れた。
「熱も下がったの」
「ああ」
坂本が笑いかけてくることに、高杉はふとある種の焦燥を感じた。いや、それは彼が今朝からずっと感じていた事で、必然だったのかもしれない。
「今日は林檎を持ってきたんじゃが、食うがか?」
しかし坂本は高杉の心中など知らず、手に持っていた風呂敷袋から二つ林檎を取り出し、自身の横に並べて笑う。高杉は坂本の動作を見つめていたが、その日の焦燥感とその時ふと感じた事がピンと繋がって、慌てて口を開いた。
「坂本」
まずは名を呼んだ。
「なんやき?」
男は、首をかしげる。
「俺は今迄、我が儘や命令は腐るほどしてきたが、頼み事、というものを一度もしたことがない」
「……なんじゃ?藪から棒に」
「お前に、頼みたい事がある」
高杉はその隻眼で坂本を見つめた。昔はしていた包帯も今は外して、綺麗に伸びた髪に隠している。坂本は高杉とはまた違い己の眼をサングラスに隠している。その瞳は、最初に高杉を見舞いに来た日よりもだいぶ疲れているように見えた。
「……お前、疲れてるな」
だからか、話が逸れた。
「いんにゃ、これくらいは……」
「毎日こんなとこまで来るからじゃねぇのか?」
「いいや?」
坂本はそう否定したが、全く違うとも言い切れなかった。高杉の隠居する大きな一軒家は、江戸の外れの山の奥、長い坂の上にあった。江戸市内から通うには少し遠い。
「仕事はどうしてんだ」
「なんとかやっちょるよ」
本来、宇宙を飛び回り、貿易をしている坂本がこの数週間江戸から動かずにいる。会社の社長で、部下に恵まれているとは言えど、そんな我が儘が許されるものなのだろうかと高杉は考えるばかりだ。
「どうして毎日来るんだ」
「旧友の見舞いに来てはいかんがか?」
高杉は疑っていたのだ。坂本が何を考えて毎日自身の見舞いに通うのかを。消えていく命を笑いに来ているのだろうかと疑うことさえあった。流石にそれは違うと納得してはいたが、他の理由が思い付かない。しかし坂本の答えは簡潔的であった。どうやら本物に単なる見舞いのようだった。だからこそ、高杉は唇を噛んだ。
「旧友、か……」
高杉にはその答えが酷く残酷に思えた。
「ああ……そうだ。頼み事の話だったな」
高杉は坂本の沈黙に耐えられず、わざと思い出したかのように言葉を紡いだ。
坂本は「わしに出来ることにしちょくれ」と少し笑い、小首を傾げながら高杉の瞳を覗き込んだ。
「お前にしか出来ないな…」
高杉はしばらくその目を合わせていたが、すっと浅く息を吐くと、気まずそうに目を伏せた。数秒して、高杉は大きく息を吸うと、覚悟したように顔を上げ、坂本を見据え、言った。
「……俺を、抱いてくれないか」
その一言を言うのに、高杉はこれ以上にない程の勇気を振り絞った。ただ、言ってしまえば何て事もなく、余りに冷静な自身に驚くほどだった。
「は……――そりゃ、どういう」
坂本は一瞬だけ目を開いて狼狽したように見えた。しかし直ぐに真顔に戻って、問い直した。はじめ、二回は言いたくないと考えていた高杉だったが、坂本の驚き様に少し気が傾いて、再び口を開いた。
「俺を抱いて欲しい。女のように」
高杉が繰り返す言葉を聞き、坂本はやはり驚いた。男色について驚いたわけではなく、その男の頼みと言うのがそんな事だった、ということに驚いたのだ。もっとも坂本は、何故高杉が自分にそのようなことを頼んできたのか見当がついていた。
「何をいうちょる」
だから、聞いた。悪びれもなくこう言うことが一番傷つけないだろうと思ったのだろうが、それは勘違い以外の何物でもなかった。高杉は口の中で少しだけ唇を噛んで、しかし言葉を続けた。
「俺は、昔からお前が好きだった」
合わせていた視線を気まずそうに外す高杉の頬は、熱のせいか告白のせいかほんの少し紅潮しているように見えた。そのまま視線を落とした先にあった自身の指は白く細く、この指に漆黒の愛刀は似合わないと自嘲して、ぐっと伸びをするように、少し遠くにあった坂本の手に触れた。
坂本はその手の冷たさに、恐怖すら覚える。
「……愛しいと思った」
高杉はゆっくりと息を吐く。触れた体温の温かさに安堵と再びの焦燥を感じ、きゅっとその手を握った。鼓動が早く聞こえるのは心臓が生き急いでいる為か。それとも墓場まで持っていく筈の想いを話す勇気を振り絞った為か。しかし言葉は止まらない。
「お前が好きで堪らない……だから、俺の最期の頼みだ。お前に触れたい。……抱かれたい」
「…たか……」
高杉は完全に顔を伏せた。自身の想いを吐露していることが不思議と他人事のように思えた。
焦っていると、高杉は自身でわかっていながら、今日この日しか機会がないとも悟っていた。人は、死ぬ数日前に病態が驚くほど回復するという話がある。高杉はそれを信じてきたし、自身の目で見てきた実状もそうであった。だから今日、目覚めた時に気付いた自身の身体の変化に恐ろしくなった。普段感じる関節の痛みも、倦怠感も、吐き気も、肺の痛みも、なにもない。全てを確認し、知った。
(これ以上は、ない)
もうニ、三日。長くて一週間。自分の命はその程度で、これが最後の回復期だと自身で理解し、泣いた。
そして、その日も来るであろう男に頼み事をしようと決めたのだった。

「……温かいな」
高杉は、今朝を思い出して泣きそうになるのを堪えて小さく呟き、もう片方の手も重ねた。
「なぁ、頼む」
死を前にすると恥も外聞もなくなるのだろうか。そう思うほどに高杉は冷静だった。しかしその声は確かにすがるように、坂本の耳に届いた。
「……ええよ」
坂本はそれまで一言も発さず、黙って高杉の手を見つめていたが、ふと何かを見つけたようにゆっくりと答えた。
「い……いいのか…」
「それがおんしの頼みなんじゃろ?わしが出来ることはやるいうたき」
「ハハッ…律儀な奴……」
高杉は自嘲するような笑いを見せたが、早まる鼓動を隠すのに必死だった。そして、今この瞬間が有るのが怖いとさえ思った。高杉は目を瞑る。坂本は高杉の手をそっと下ろすと、手を離した。熱が消えていくような錯覚に、高杉は目を開こうとした。しかしそれは、坂本の手によって塞がれた。優しげな手つきで視界をさえいで、もう片方の手は頬を撫でた。
指が唇に触れる。
口付けは、瞼の上と、唇に。
膝から、本が落ちていった。

....
坂本はゆっくりと高杉を布団に倒した。布擦れの音が高杉の耳に届く。
太陽の高いうちから、こんな醜態を晒すことになるとは思っていなかった。と、高杉は少し嘆いた。痩せた身体と、腕や腹や胸に付いた幾つもの刀痕は内出血のように青紫に変わっていた。
「綺麗な内に抱かれたかったと思うのは、また女々しいよな」
高杉は言った。しかし坂本はやはりだんまりのまま、口を塞いだ。
口付けを受けながら、しかし何にせよ幸せだ、と高杉は思った。それから、この心臓は耐えられるのだろうか、とも。
高杉の細った肩に坂本の手が滑り、羽織と共に襟元を割った。気温の高い初夏の昼間。寒さは感じなかったが、高杉は少し身震いをした。
「坂本……」
高杉が少し身体を起こそうとすると、坂本は力をかけて押さえつけた。ほんの少しの力で容易く布団に沈んだ高杉は観念したように力を抜いた。
坂本は襟から手を差し入れて、肌を撫でながら寝衣を割った。その間にも、口に、頬に、瞼に、額に唇を落としながら子をあやすように髪を撫でた。高杉は猫のように目を細めて、自由な左腕を坂本の背に回した。
「なぁ、名で呼んでも良いか?」
また女々しいことだが、と高杉は思う。しかし、三度目にもなると恥や矜持よりも、自身に素直になった気がして、甘えるのが酷く心地好かった。
「呼んでくろ」
わしも呼ぶ、と、坂本は微笑んだ。かけていた黒眼鏡をいつの間にやら外している。
「たつま」
ぽつり、高杉が呼んだ。呼んだ人の指は濃紺の帯を器用に解き、滑るように下肢を撫でた。高杉が一瞬身を縮ませると、髪を撫でていた手が再び頬へと滑った。坂本は耳に唇を近付け、耳朶を啄みながら問う。
「ええんじゃろ」
「ああ」
「身体がもたんことはないがか?」
「腹上死するかもな…」
高杉は聞こえるように溜め息をついたが、それでいいから抱いてくれと右手も伸ばした。そして、両足の間に身体を割り入れている坂本の腰に少し足を絡めた。
「動けんよ」
「うん」
高杉は言うとぎゅっと強く坂本を抱き締めた。抱き締めて、体温と汗を感じて、自身の目頭が熱くなるのに気付いた。
「好きだ、辰馬。好きだ」
「……うん」
坂本は再び口付けをした。長く、ゆっくりと舌を絡めて、高杉の渇いた口内を濡らす。
「ん……っ、ん」
口付けの最中、坂本の手は高杉の陰部へと流れた。高杉はピクリと身体を震わせて、その体温を感じた。
「ハハッ……勃たねぇかも」
体力を無くした身体の一部は快感を拾いながらも反応が薄かった。あれだけ思う通りだった事が、今はままならない。その事に焦れながら、高杉は坂本に続けるように促した。
背中に回していた右手を布団に潜らせて、坂本の中着の襟を割るような仕草をしてから、パンツのジッパーに手をかけた。
金具が擦れる音は布擦れの音に消えたが、高杉の手は着実に坂本の性器をまさぐるように動いていた。
「たかっ…」
「晋助」
それが俺の名だとでも言うように坂本の言葉を遮って高杉は笑う。笑いながら冷たい手は、坂本の熱に触れていた。熱の無い手がそれに触れると、手中で坂本のペニスが跳ねた。包み込んで上下に擦ると、坂本は一瞬身震いさせて息を吐いた。
「っ晋助……」
坂本はそっと名を呼んでから、高杉の背中に手を差し込んで身体を起こさせると、自身の方へと凭れさせ、幼子を抱っこするような形で落ち着かせた。
「っ…」
坂本はそのままの形で、二人分の性器を手に包み込んだ。高杉にも触れるように促せば彼は黙ったまま手を寄せた。
乾いた肌と肌は、手の熱と少しの汗で徐々に溶ける。高杉が舌を出すと、応えるように坂本の舌が絡み、唾液に濡れた。
「はは…勃つもんだな…」
「どころか、濡れてきちょる」
「ん……っ」
勃ち上がった性器の先からは、正しい射精を忘れたかのように精液が垂れる。むず痒そうに、内股を動かす高杉の耳元に口付けながら、坂本は手を動かすのを止めない。
「んっ……」
息を詰めて、吐いて、詰めて。
「晋助」
坂本は高杉の背にまわしていた腕を少しずつ下へずらし、まだ他よりも肉のついている双丘に指を沈めた。前日まで熱があったからか蕾は熱く熟れていて、坂本の指が入り口をなぞる度に高杉は目尻が熱くなった。相互的に、前を扱く手は止まらず、粘着質な液で下生えまで濡らし、部屋に響く音が高杉の気を昂らせた。
「くっ……ァ」
坂本の指が後孔に入ると、高杉は苦し気に眉を潜めた。他人の身体のようだと思っていた自身の身体が、妙にはっきりと感覚を拾うことに驚きながら、ただ入ってくる質量に興奮を感じていた。
「きついがか?」
「……っん…平気だ…」
気遣うような坂本の声に、既に息の上がった高杉はなんとか答えた。その答えを聞いた坂本は入り口で遊ばせていた指をつぷんと窪みへ沈めていった。
「んっ……ッぁ……」
高杉の奥は熱く柔らかく、坂本の指に絡み付く。指を中でカクンと折れば高杉は濡れた声を漏らし、小刻みに震えた。
「っふ……」
乾いている肌とは反対に、熟れた中は腸液でぐずぐずに濡れており、簡単に解れていく。
「ええがか…?」
「ああ」
坂本がもう一本の指で蕾を撫でながら聞くと、高杉は短く頷いた。完勃ちの性器は互いの腹の間で擦れながら先走りを流し続けている。
「ん、んんっ……」
二本目の指が入ってくると喉の奥から掠れた声が漏れ、余りに身体を強ばらせるために中がキツくしまった。
「深呼吸して……力抜いてくろ」
「はぁっ…んっ……これで、いい、か?」
「ん、ええきに」
身体中のどこもかしこも熱くてどろどろと溶けてしまいそうで怖いと高杉は思って、目に涙を貯めた。
「たつま……あついっ…」
「わしもじゃ」
「っはぁ…辰馬、たつま…」
坂本が二本の指で中を弄り始めると、高杉は何度も何度も坂本の名を呼んで、その男の美しく鍛えられた身体に手足を絡めた。
「っ…あ、お前が、欲しい…」
頭も、目も、口も、胃も、肌も、性器も、総て熱くて。
このまま受け入れれば腹上死もあるだろうと思いながら、それならそれで良いだろうと高杉は坂本の熱を求めた。
(これが単なる情けであっても)
(愛していると言われなくとも)
(この瞬間が恐ろしいほど幸せだ)
「……腰、上がるがか?」
「は…力入らねえよ……」
高杉は涙を流していた。生理的なそれなのか、嬉しさからのそれなのか、それとも悲しさからなのか。高杉には何もわからず、肩の力を抜いて坂本にしがみつくようにまかせきりにしていた。
坂本は高杉の中から指を抜くと、腰を掴んで浮かせてやった。
( 細い )
坂本は双丘よりも肉の細った腰を数度なでた。
「……くすぐってえよ」
「おんし、細っこくなったのお」
「……俺も思う…っん」
「入れるき、ええがか」
「ああ……っ」
坂本の熱塊が、高杉の後孔に触れる。恐怖よりも悦びと、胸を締め付けられるような切なさで、高杉は必死に坂本に抱きついた。
「くっ…きつ……」
「――――ッ!」
息ができない
感じたことのない質量、そして未知の感覚に高杉は何も考えられなくなり、パニックすら起こしていた。
「た つ……いきが」
息が正しく出来ない。過呼吸なように浅く息を繰り返して声も出ない。
「晋…っ!?」
「か…は……っ」
「晋、ゆっくり息せぇ。息じゃ」
何度か背中をさすると、高杉は一瞬目を開いて坂本を見据え、大きく息を吐いた。
「はっ……ああ……」
「落ち着いたがか?」
「きっつい……」
「はは、わしもじゃ」
「ん…っもう平気だ……」
だから高杉は「来い」と言った。矢張命令のように言ったのて、坂本はそれを少し可笑しく思って微笑した。
「きつなったらすぐに言うてくろ」
坂本はそう言うと、ゆっくりと自身の腰を引き、高杉の身体を再び緩やかに布団へと沈めた。坂本は高杉の顔の横に片手をついて、のし掛からないよう気をつけて腰を進めた。少し中へと進む度に、高杉の口からは声が漏れた。涙を流しながら苦し気な表情を見せる高杉は、産婦の美しさのような美しさがあった。(それは生命の狭間を感じる、なんとも言い難い恍惚とした表情だ)
「あっ……ッ…!」
坂本がゆっくりと腰を進める度に高杉は声をあげた。自身の身体に、いとおしい人が入ってくる。悔しい事に、高杉は坂本を抱きたいとは思わない。抱かれたいと思う。だから徐々に探るように入ってくる坂本に対して少し焦れた。
しかしすぐに全て入ったようで、動きを止めた坂本の苦し気な顔に、高杉は目を細めて笑った。
「ははっ……、痛てぇなこれ……」
「じっきに良くなる」
「……ん」
高杉はそれを聞いて少し悲しく思った。高杉自身、男と交わったことは一度だけあったが、坂本の言葉からして彼は大分慣れと言うものがあるようで、例えばその相手が女であっても、変に嫉妬心が出てくる気がしてならなかったのだ。
(自分を棚にあげて)
高杉はそう思ったが、死に損ないの我が儘な嫉妬心くらい許されるだろうと、一人笑った。
「辰馬……来てくれ……」
「ん。ちゃあんと息しちょれよ」
返事は声にならなかった。高杉の中に納まっていた熱が暴れ始めると、高杉は再び泣きながら坂本にすがった。
「ンッ、たつ…まァ、アッ」
「晋助っ良いがかっ?」
「ッは!ば、かがッ」
好いて、愛した相手と交わって善くない筈がない。本当は心まで欲しい相手だ。
(心は諦めるしかないけれど)
「―――ッンっ、アアッ!」
頭が白んでくる程の快楽は、紛れもなく坂本が産み出しており、高杉は弛緩と緊張を繰り返しながら揺さぶられていた。泣いて、泣いて、泣いて。心が締め付けられる。もう死んでも良い。いや、ああ死ぬのか、だからか。息が出来ないままに、すがるだけすがって。
「っ……んあっ…はッ!」
ぐっと奥を突かれて、ピリッと感じる部分に当たる。そのまま、募った射精感に抗えず高杉は大きく背を反らせた。
「もっ……いッ…!」
高杉は強く奥歯を噛んで声を耐えると、一気に白濁を吐き出した。溺れていく。肺の奥から、奥から、奥から、溺れていく。涙と唾液とで濡れた顔を坂本の肩に押し付ける。
瞬間的に意識が霞んで、高杉の意識はホワイトアウトした。

(間際に聞こえた男の声を、良いような妄想だと思わないと、多分、死んでも死にきれない)

「――……ッゴホッ」
高杉は自身の咳で目が覚めた。
「ッゲホッ…う―……」
身体は重く、目覚める前の軽さと熱は一体どこへ行ったのかと思うほどだった。着実に近づく死が身体を蝕んでいくようで一瞬恐怖しながら、寝惚け眼を擦る。
「ゴホッ…」
また咳をすると、隣で何かが動く気配。
「高杉……?」
その気配から発された声は、坂本のものだった。
「あ…さかもと……?」
「寒くないがか?」
「う……ああ、うん。それより、お前なんで……」
いつの間にか高杉は寝間着を着せられていたし、腹に散った白濁の不快な感じもない。隣の男はコートこそ脱いでいるが服を来て、高杉の方を向いていた。高杉は隣に坂本がいることに、少し驚いて、しかしどうしようもなく心地好く思った。
「ん。おんしが苦しそうにしちょるき、心配でみとったんじゃ」
それを聞いた高杉は坂本が見ている隣で死ねたらよかった、と思うのと同時に、いとおしさが溢れて抱きつきたくなる程だった。
「…坂本」
「なんじゃ?」
「……お前は優しいな」
じゃなきゃ頼みとはいえこんな死にかけた男を抱こうだなんて思わないだろうし。
「おんしが…わしを好きじゃといってくれたんがうれしゅうて…」
「……言ってみるもんだな…」
渇いた笑いを見せながら、高杉はまた苦し気に咳をした。坂本は小さくなった背中をさすりながら、自身の方へと高杉の身体を寄せた。
「あったけぇなお前…」
「おんしもぬくい」
「ああ、このまま死ねたら、幸せなんだがな……」
「縁起でもないことを…」
「坂本」
「……なんじゃ」
「……お前を愛してよかったよ…………」
「…晋?」
眠さかそれとも疲れか、高杉の意識は闇へと沈んでいった。刹那、坂本は心臓が止まる思いだったが、高杉が浅く小さな呼吸をしているのがわかるとそのやせて細った身体をきつく抱き締め、一筋、涙を流した。



数日して、男は逝った。
坂本はあの日からも欠かさずに男の元へ足繁く通ったが、目に見えて衰えていく姿を見るのはひどく辛いことであった。
人は、どんな最期が一番幸せなのだろうか。愛する人に看取られることか、それとも苦しまずに安らかに逝くことか、もしくは走馬灯というもので、美しい過去だけを見て死ぬことか。
しかしそれは口のない死人にしか分からない話だ。
「………晋助」
抱かれて幸せだと言った男の顔が脳裏に焼き付いて離れない。後悔と、安堵と、悲しみと、他にも色々。入り混ざると人間は涙が止まらなくなるようだ。
坂本は泣いた。
あの日涙を流していた男の瞳は固く閉じられ、あの日坂本を掻き抱いた腕は、胸の上で組まれていた。ゆるやかに視線を送りながら、坂本は男の顔を撫でた。つやりとした顔は陶器のように冷たく、このまま腐らずに居てくれたら一生共に居られるのに、と、思う程に。
坂本はその男の左目にかかる髪をかき上げて、変色し死んだ肌に唇を落とした。
「……愛してた」(私、も)
何故伝えなかったのか今更になって思うものだ。しかし坂本は妙に冷静な心情で、振り返る。愛した相手に愛していると言われて嬉しくない筈はない。しかし言ったとて、結ばれる事もない。
あの日、坂本は男に愛を伝えなかった。しかし多分、男はわかっていた筈だ。あれだけ丁寧に抱いて、撫でて、全身で愛を伝えて、それで「何もない」などと、男だって思ってはいなかっただろう。しかし男は坂本に愛の言葉を求めなかったし、坂本も何も言わなかった。特に坂本は言葉に出して「愛している」と言ってしまえば瞬間に、魔法が溶けてしまうような気すらしていたのだ。(言葉にした瞬間、変わってしまうであろう関係性を恐れた)(同時に、男が満足してすぐに死んでしまうのではないかという不安で言えなかった)
そんな下らないことで、坂本は男に愛を伝えなかった。そうは思うが不思議と後悔はない。
(言葉などなくとも……)
(しかし本当は彼だってきっと欲しかっただろう)
坂本は、あの日のように男の唇を指でなぞった。その冷たさが辛かった。
「………愛しちゅう。晋助、おんしだけをずっと……愛しちゅうよ」
今、目を開けてくれたら放さないのに。(二人はそれを無理だと知っていた)

(命は消えるからこそ美しい)

SM(坂高)SなのにMっぽい坂高×SぶりたがるM高杉

サディズムを秘めているのは、どちらかと言えば君ではないかと思う。
かといって、私がマゾヒズムを秘めているかと問われれば、「在っても人並みのマゾヒズムである」としか答えられない。性欲とは時にサディズムとマゾヒズムの凹凸がつながりあうことだろうが、しかしだからといって女が皆マゾヒズムを持っているかというわけではない。
しかし彼はサディストだった。
そして同時にマゾヒズトである。
「ほら…言えよ……」
低い男の声が、淫靡な響きを持って問うた。男は、上体を起こした私の上に跨がっている。そしてその指は、私を誘う為に淫らに体中を動き回っていた。
右手の五本の指は私の頬を撫で、唇に触れ、喉を煽った。
左手のそれは、私の性器を包み込み、上下上下に動いている。
「…ん。おんしん中に入れて……かき回したいぜよ」
口の端を上げつつ顔を寄せれば、ゆったりと唇が合わさる。
「んっ…いいぜ、来いよ……」
男が、勃ち上がった彼自身を私の性器に擦りける。そして私の熱く怒張したそれは、男の中に入る為に入口に当てられた。
「―――ッア!!」
息を止めた、声がした。
「クッ……」
私は、男を貫いた。いいや、私の熱い欲望が、男の奥の奥まで、貫いた。
「ッァ……あッ!」
男は私の上で、喉を反らせて喘ぐ。喘ぐと言うよりは、苦し気に叫鳴したと言うべきか。
「苦しいがか?」
「ば…っか、動け、よ」
男の手はいつの間にか私の首に回り、頭は項垂れて肩にあった。早い息遣いが首元にかかる。甘い熱に当てられてしまいそうだった。
「…ッふ…」
「…んっ…んっく…んんっ…っ!」
下から上へ腰を突き上げると、畳が軋む音がした。私の生生しく黒い性器が、私の上で声を耐えている男の白い臀部の蕾から入っては、抜ける。ぬるりとした腸液で滑りを増して、きゅうきゅうと締め付けてくる中は、とても熱く気持ちが良い。
もしも私が本当に、それこそ本能のままに性交をするならば、きっと私は男ではなく女を抱くだろう。この男との行為は理性という土台の元で行われる嗜好であるのだろう。
だから私はマゾヒストに成り、男はサディストを気取る。
「さっさと、イケ、よっ!」
「もうちっくと、中に居らせてくろ」
「馬鹿かっ」
さもすれば、男は自ら身体を浮かせ、動こうとする。私はその筋肉のよくついた(女のそれとは程遠い)腰を押さえつけないように自身に言い聞かせる事に必死である。
よくよく考えれば私はこの男に組み敷かれてはいるものの、心身共に余裕があるのは私の方であった。
組み敷かれる事に快感を感じているわけでもない私は、私にしがみつき、眉を寄せ、快楽の声を殺す男に、ゾクゾクとしたある種歪んだ快感を感じている。
「ンッアァッ…!」
ある一点が感じたらしく、男はついにあられもない声を上げた。私は不感症ではないのでこうして私自身に感じてくれている男を愛しく思うし、もっとよくしてやりたいとも思う。
けれど私は、彼からの言葉を待つのだ。
「晋助?」
促すように、しかし嫌味にはならない程度に。
「ッハ……ッ!!辰馬ッ!もっと動けッ!!アッッ、そこっ…!」
そうすれば、男は私に言葉をくれるのだ。私はこの男に随分と甘く、また、手なづけられているので、なんでも言うことを聞いてしまうのだ。

(命令さえあれば貴方のご所望通りに抱かせていただきます)

私が何度もある一点を突き上げると、男は息を止め、身体を強張らせ、震え、濡れた声を上げながら精液を吐き出した。
その射精の際の強ばりに、男の中は突然締まり、私の性器をきつく締め付け、私自身も射精してしまった。
そして、男は息を荒らげ、肩にしがみついたまま、再び私に言うのだった。
「舌出せよ」
涙をためて赤くなった目尻
汗に濡れてしっとりとした髪
繋がる熱さに高揚した頬
薄く開かれた唇
誘うような男の薫りに私は酔っていた。

疲れきった男の刹那の抵抗など今の私の力には及ばないだろう

剥ぎ取るように奪ってしまった男の舌は、紫煙の苦い味がした。

SM(銀桂)

俺がサディストだというなら、君はマゾヒストである。
SMプレイというと少し甘くて生温くてほんわかしたようなものに思えるけれど、サディズムとマゾヒズムというとどうしてこんなにも禍々しく淫猥な響きなのだろうか。そこには支配するものとされるものの関係も含まれていて、それはどうしようもなく俺を興奮させる。

「やっぱりさぁ、男って言うのは支配欲があるわけよ」
「……ッだ、からって」
「有名な思想家も言ってるよ?自然に帰れって」
「意味、が……あッ」
「昔は本能の方が強かったりするじゃない?土地を持ってる奴が一番なんでしょ?その土地には女も含まれるわけよ」
「アッ…ンンッ」
「それって、男の本能みたいなもんでさ。女を支配するのが快感だったんじゃないかとすら思うわけだ俺は」
「ふっ……っう……」
「俺だってたくさんの女とイチャイチャしてぇし?エロイ事もしたいと思うけど?」
「アッ!っく…」
「やっぱりいろいろ気ぃ使わなくていいお前が一番いいって思うのは何でかな……お前男なのにさ」
「………っば、かも、のっ…アッ!」
つくづく俺はサディストだと実感する。
街中の人の居ない路地裏で、俺は桂と密事をしていた。
今日は朝から何となくもやもやとしていた。もしかしたら雨が近づいてくるのが関係していたのかもしれない。ぶらぶらと街を歩いていた俺が偶然に出会ってしまった長髪の美人は、可哀想なことに格好の標的となった。
無言で腕を引いて、裏路地に連れ込んで。特に何の抵抗も見せない男の行動に、またもやもやとしたのは言うまでもない。
路地の奥、腕を木壁に押し付けて、キスをした。驚いた顔を見せた癖に、すぐに目を閉じた。どうしてそうすぐに享受できるのか。俺以外にもそんな顔を見せるのではないかと考えると、胸に苦しさが現れた。
だから腕の拘束は放してやらない。そのまま彼の腰帯を解いて、屋根から伝う排水用のパイプと腕を縛って自由を奪う。立たせたまま裾を腰まで捲って、臀部を撫で、禄に馴らしもせず下着の隙間から孔に指を突き立てた。
「―――ッァア゛!」
普通なら、その声を抑えるようなことをするだろう。ここは外で、少し行けば人が大勢通る道なのだ。それでも俺は声を抑えるように言わないし、抑えさせない。そして彼も抑えようとしていない。(突然であったからだという言い訳は正しいかもしれないが、声を抑える努力を怠った事に変わりはない)
まさに、遊び、である。
あまり濡れていない孔は、ぎちぎちと指を締め付けるが、お構いなしに動かした。やめろと泣き声が聞こえたが、指を出し入れしている間に、前は勃ち上がり、後ろも熱く解れてきた。
まったく変態的だ。
性交とはこのようなものだったろうか。思い出せない程には、私は彼に対して嗜虐的である。
そして先程の会話だ。
彼の後孔に指を立て、音が鳴る程かきまわす。足の力が抜けたのか、彼の膝は笑い、今にも崩れてしまいそうだった。
「ああもう、お前ん中入れてるとこ、見せ付けてやりてえ」
誰に、という訳ではない。全ての人間に、なのかもしれない。征服欲と支配欲と。
酷く汚い感情を吐露するならば、こいつが俺のものだと言うことを教え込んで、証明のように犯したい。

顔だけこちらに向けさせて、口付けをしながら、孔から指を引き抜いた。
一瞬のそれに彼の背中は綺麗に反って、声は、俺の口内へと消えた。
「……ね、ヅラ、欲しい?」
「ハァッ…ンッぎっ…」
尋ねながら、下を弄る。俺を欲しがってひくつく後孔と、猛る性器を嬲れば、彼の声は一層大きく鼓膜を揺らし、俺を煽った。
「ぎんときのっ…すきなだけ、いれてッ……ぐちゃぐちゃに、してぇ…っ!」
いつもより少し上ずった声。普段の彼からは到底想像できない躾られた告白は、益々俺を興奮させた。
「……そこ歩いてる奴らに聞こえるように声出せよッ」
言葉と同時に猛った熱塊で、彼の熟れた中を穿った。
「ンッ…アアア!!」
叫びは大通りにまで聞こえただろうか、聞こえていれば良い。人が集まればいいとさえ想っている。人に自身のあられもない姿を見られて、泣き叫びながらもよがる桂の姿がみたい。想像しただけで自分自身の熱が高まる。
欲に任せて奥をがつがつ突く度に、桂は喘ぎ声を漏らし、鳴いた。無駄な肉がついていない腰を掴んで、快楽に身を任せて、激しく突いた。
自分自身の荒い息遣いよりも、彼の淫らな喘ぎの方が大きく、それに酔う俺も俺で、喉の奥で声を殺した。
「……っく」
柱に手をくくられた桂は、既に腰をつき出すような体勢で、自らねだるように締め付けてくる。
「ッアッ!ぎんときっ!も、っいっ……!」
「ああ?何?」
きっともうイきたいのだろうが、簡単にイかせることほどつまらないことはない。俺はそのまま彼の性器を握り込んで、射精を止めた。この低く不機嫌な声と行動に、彼のマゾヒズムはくすぐられるのを知っている。
「っあ……いきたい、ッ…い、かせてっ……」
「駄目」
「なんっ…あっ!」
振り向いた桂の、涙を溜めた視線が懇願する。それに興奮を覚えては、深く突く。
「アアッ!イッッ…!」
流石に可哀想だ、と思えたらいいものを。もっと泣いた顔が、善がり、泣く顔が見たいだなんて。
「ッ……」

奥歯を噛む。
通りの方から、足音が聞こえた。
気配に敏感な彼もそれに気付いたようだった。

(そして俺はまた口の端を上げて笑うのだ

生死の境でおいきましょう3Z

お前と付き合うから条件を出させてくれ。桂は言う。
ひとつ、セックスは俺が望まない限りはしない
ひとつ、もしするときは、俺が望むようにイカせてくれ
ひとつ、足りないなら女を抱いても構わない。

こんな条件を出されたら流石に考え直すと思ったのだが、銀時は迷わず頷いた。


「は…………っ、」
絶頂というのは普通、少しでも性的干渉があって初めて起こるものだと銀時は思っていた。
ただ、目の前で意識を飛ばしそうな程に恍惚とした表情を浮かべて酸欠に喘ぐ男は、普通に付き合うなかで性的な事では全く反応しなかった。
「キスもセックスも、ただ形だけ、うわべだけで、全く気持ちよくない」
そう言った桂は、銀時に押し倒されて、その雄を熱くしていた。
長い髪を散らして、目に薄く涙を浮かべ、爪で床を掻きながらはくはくと水揚げされた魚のように空気を求める桂は、顔を赤くして、何もない宙を見る。
銀時は、無言で桂の首を絞めていた。細い身体に馬乗りになって、首にかけた手にゆっくりと体重を乗せた。桂は嬉しそうに銀との腕に手を置いて、自らの雄を熱くし、小刻みに身体を震わせていた。
「か……は……」
掠れた声が音をなさないままに空気に飛散する。
こんな方法は正しいことなのか。いや、正しいとか、正しくないとか、そんな事ではない。
(こんなに虚しいのに)
銀時は誘われるがままに、桂の首に手をかけてしまう。
好きな相手と性交渉が出来ないのは物足りないことだと思っているのに、桂の絶頂の表情を見ると射精できる程の興奮を感じてしまう。
(お互いに変態ってことなんだけど)
セックスの最中に首絞められてイクというのはなんとなくわかるけれど、首絞められただけで勃起してイクのはよくわからないと銀時は常々思うのだが。
(いやでもその顔見ると勃っちまう自分もどうなの)
銀時は溜め息をつきたい気持ちを抑えて、再び手に力をこめた。
「っ………!!」
逃れようと身体をばたつかせて、口の端から唾液を流して、濡れた目を見開いて、胸を上下させて、汗ばむ手に爪を立てて。
(………興奮する)
勃起した性器同士が布ごしに擦られて、銀時は無意識に腰を動かしていた。今思えば長い付き合いをしてきたというのに、今まで一度も桂の中に銀時自身を埋めたことがない。銀時から誘ったこともない。大抵桂が突然発情したように銀時を誘う。しかしそれが全く行為につながらない。そこにあったのは死というものに興奮する雄の姿だけで。
(繋がりたいと思わないわけではないけれど)
「ぎ、ん」
死にそうな声で名を呼ばれる。激しい背徳感と共に、身体中が震えた。
「いけよ」
銀時は静かに言うと、再び手に力を入れた。白く細くしなやかな首は、折れそうな程に赤く絞まった。

喘ぐ蛇達桂銀

銀時が心の準備やら身支度を終えて襖を開けると、桂は万年床の上に座敷童のようにちょこんと座っていた。
「……なんで正座?」
その格好に少しドキリとしながら後ろ手で襖を閉める。
「や、だって」
顔を伏せていた桂は、少し照れくさそうに顔を上げた。
「そりゃ女がするこった、ま、男としちゃ喜ばんでもねぇかな…」
銀時は言いながら跪くと、桂の腰へと腕を回して自らへと強く引き寄せた。
「あっ……」
そのまま顔を近づけると声が漏れ、唇を寄せるとゆっくり瞼が閉じられた。
互いに触れたことのない場所に触れるという事実に少なからず緊張していたらしい。初めは触れるだけの口付けだったのが、段々と激しく変わっていく頃には二人して唾液を混ぜ合わす程になっていた。銀時が歯列を割って口内に舌を入れると、桂もぎこちなく舌を差し出して応えようとする。銀時はがっつきたくなる気持ちを抑えるので精一杯だった。自重しないと……と唇を離すと二人の間に銀糸が伝った。
「っ…はっ……はっ……」
「もしかしてキスも初めてだった?」

うまく息継ぎが出来なかったのか、肩で息をしていた桂は少し何か言いたげにしたが、黙ったまま潤んだ瞳で銀時を見つめ返した。結局、銀時はその瞳に吸い込まれるようにもう一度唇を塞ぎ、質問を止めてしまった。
今度は同時に服を脱がさせにかかる。
「…あ……」
「ほら、脱がしてくれよ?『最初は好きな奴と』なんて今更ねぇだろ?……まあ、思いたきゃ俺を好きな奴だと思って抱いとけよ。あ、でも女みてぇに柔らかくはねぇし、お前の好きな人妻じゃねーけど」
少し自嘲めいて言ってみた。桂が他の誰かの代わりに自身を選んでいたとしてもといい、と、銀時は何度も自身に言い聞かせた。(勘違いしてはいけない、これは依頼だ、とも言い聞かせた)
「銀時……」
桂は一瞬何か言いたげにしたが、途中でやめた。無言のまま口付けてきた。何度も何度もキスを繰り返している間に、手を動かしては互いの着物を乱し、遂に一糸纏わぬ姿になった。
「ど……したら」
大の大人が裸で布団の上にいて、片方は要領がわからずおどおどしているなどと、滑稽な姿だ。
「まず胸でもチンコでも好きにいじってみろよ。気持ちよくしてくれんだろ?」
そう言って銀時は桂の腕をつかんで自分の方へ持ってこようとしたのだが、軽く抵抗された。
「しゃーねぇな……手本見せてやるよ」
桂の耳元で深く息を吐きながら、反対の手でそっと彼の性器に触れた。それはこれからの行為への期待からか、少しだけ熱を持っていた。
「っ!」
目を瞑り、大きく頭を振った桂の長い髪がさらりと鳴る。
「ど?」
「あっ…や…」
 聞くまでもないだろう、確かにそのペニスは反応を示していたのだから。
 「反応いいな。俺にもやって?最初はゆっくりな……」
先ほど掴んでいた桂の手を再び自分の雄へと近付けると、今度は抵抗なく触れた。少し冷たい手に触れられて、背筋がぞくりと粟立った。
「こ、うか」
「そ、いい感じ…んっ……」
「銀時……?」
「おめぇの手ぇ冷たくて良い……ほら、もっと動かせよ……っ」
 銀時は自らの手を両方重ねて、桂の手を動かす。扱かれる度に短く息が漏れる。
 「ぎんとき、キスして、いいか…?」
「………そう言うのは雰囲気で察するもんだ」
「ふ……そうか」
桂は少し笑うと銀時と唇をあわせた。軽く一瞬だけ触れあうと、かぶりつくように唇を覆った。
「っ、っは……。ほら…合わせて擦って……」
口付けが終わると銀時は桂の一物と自らのそれをぴたりと重ね、それを包み込ませるように桂の腕を誘導した。
「あつい……」
先走りの精液と汗が二人分の性器に絡まり、擦る度に濡れた音をさせた。ぞくぞくと高まっていく快感に必死についてこようとしているのか、桂の腕は震えている。
「ヅラ……見てな」
呼ばれて目を合わせると、性器を掴んでいた筈の桂の腕から銀時の手が外された。
「なに……?」
桂が問うと、銀時は膝立ちになって桂を見下ろした。ぽかんとしている桂を前に、銀時は舌を出しすと、自らの指を舐め上げた。最初は一本、次に二本、三本、と唾液に濡れていく指を口の中で吸ったり、わざと音をたててしゃぶる。口の端から唾液を溢してにたりと笑う銀時に、桂は興奮すら覚えてめまいがした。
「な……」
「ここにおめぇの入れるんだから、慣らさねぇと」
銀時は桂を挑発するようににたりと笑うと、その指を自らの後部へ回した。桂は銀時の行動の意味がようやくわかったのか、ハッとして目を見開いた。
「い…痛くないのか……?」
戸惑い気味な桂に、余裕綽々な銀時が笑う。笑いながらも、片手で桂を押し倒す。軽い音をたてて布団に倒れた桂の髪が大きく散る。腹の上へとのし掛かり、見下ろすと、女を押し倒しているような気分にもなる。しかし入れられるのは自分の方だ。
銀時はまた少し苦笑した。
「ホラ、もう慣れたし、入れろよ」
自身から指を引き抜いて誘うと、ぐちゃりと濡れた音がした。意外に大きく響いた音が桂に聞こえていない筈もなく、桂は小さく戸惑った声を出して固まってしまった。
「……ったく…しゃーねーな……そのまま動くなよっ」
腰を浮かしたままの銀時は桂のペニスに手を添えると、自らの後孔に宛がった。
「ふっ……くッ……」
後ろを使うことなどまず滅多に無いことだし、慣れていたとしても最初に受け入れる苦しさは女より男の方が強い筈だ。(と、銀時は思っている)
腹圧がかかるような苦しさに歯を食いしばろうとしたが、これでは逆効果だ、とすぐに口を開けて、大きく息を吐いた。衝撃というよりも、ゆっくりとした圧迫感が銀時の腹の中に入ってくる。
「はっ、入って……」
桂は目を見開いて、銀時を見た。普段触れることのない場所に入って、熱く絡み付く粘膜。桂にとって初めての行為は確かに『気持ちが良い』と思えるものだった。
「ッ、動かしてみ…」
「動……」
「腰っ、あがんだろ!」
「いいのか…?」
「……『いいのか?』じゃねーよッ!」
(馬鹿言うなよ、お前と触れ合っているのだから悪いわけがない)
銀時は少し怒ったように、勢いを付けて腰を浮かすと穿つように動き始めた。
「うわっ…!ぎんっ……!」
「いい、から、腰動かせって!」
「ハッ……ぎ…ときぃ……っ!」
(入れられているのは自分だし、動かされて打たれているのも自分なのに、どうしてコイツはこんなにヤられているような声を出すのか。そのくせ力だけはあるから…普通に腰動かせるとか……)
「ッ……なァ、ヅラァ……ココに手ぇ置いてみ?」
銀時は少し笑って桂の手を取ると、自らの腹の少し下に押し当てた。
「……なに……?」
銀時が何をしたいのかわからなかった桂は、額に汗を浮かべたまま少し首を捻った。
「お前のが、ココ、入ってんの………わかる?」
「バッ…!」
その声に一気に頬を紅くした桂が、その顔を背けた。銀時は額に汗を浮かべ、動き続ける。
「なあ……前擦りながら動いて?そこ、右…ッん」
下から突き上げるのに慣れていない桂は汗を流しながら、上で動く銀時に手を伸ばした。
「は……っ、銀っ…もう…」
「早ぇーよ…」
言いつつも、銀時は後ろを意識すると桂のペニスをキュッと締め付けた。
「ううあッ……もっ…ぎんっ!」
「ッ……」
体に、力が入る。一気に緊張した身体が震える。
桂が苦しげな(しかし色に濡れた)声を上げて一気に達すると、銀時は桂の上に倒れこんだ。

教師生徒高杉女体化 愛はあるが坂本がひどい

酔いは理性を崩壊させると知った上で、坂本は酒を飲んだ。
素面の生徒を抱く、酔った教師。
もしも関係が公になったら…という危機感は、目の前の快楽に消えた。
目の前で必死に応えようとする高杉に、全てを奪われるようだった。
「ンっ……っは、ァっ……」
舌と舌を合わせ、唾液を交わらせるキスを繰り返し、お互いの熱をあげていく。慣れない様子の高杉が必死で応えようと息をしているだけでいとおしく、坂本は優しくキスを落として唇を離した。
そのまま、腰を抱いていた手をずらし上げる。
まくりあげられたセーラー服。普段は見えない部分が見えていると思うだけで優越感に浸れた。白い肌と控えめな色をした下着が坂本の目の前に露になる。
「あっ……せ、んせ…」
「ん?どういた?」
唇を放し小さく声をあげた高杉に、猛り始めた己を擦り付けながら、坂本は余裕を見せつける。
膝の上に乗せた小さな体、生徒とこんな関係になるなんて、誰かに知れたら退職も免れないが、それでも我慢が出来なかった。それだけ本気だということを少女は理解しているのだろうか。
坂本は服の中に入れた両手で後ろのホックを外し、現れた実りに手を伸ばした。
高杉は一瞬身体を揺らして驚いたように目を瞑ったが、すぐに愛撫を受け入れたようで、熱い息を漏らした。
「やわっこいの」
普段目立って大きくは見えないが、実は意外と育っているそれは白くやわらかい。
「ん、くすぐった…あっ……」
張りのあるそれを揉みしだきながら胸の突起を摘まむと、高杉の体が少しだけ揺れた。
坂本は手のひらで胸を楽しみながら、指先で薄ピンクのそれを弄んだ。
小さく息づき、徐々に匂い立ってくる色香は既に熟れたもので、坂本はたまらずその果実にしゃぶりついた。
「ゃっ……んっ……」
舌で突起を転がし、ジュッジュッと音を立てながら吸い上げる。
高杉は恥ずかしそうにしながら熱い息を坂本の首元に吐いた。
じゅっ、じゅる
「ふ……、あ」
舐めて、舐めて、少しだけ噛んで、転がして、吸い上げて。
しばらくそうして続けていると、高杉の腰が揺れ始めていた。
「そろそろこっちも…?」
坂本は腰においていた片手をゆっくり下げて、スカートの中に手を忍ばせる。
そのまま下着を数度撫でると、布に染み込んだ液が手についた。
「えろう濡れちょるの」
「恥ずかしい、から、言うなっ……」
そんな言葉も裏返してしまえば悦んでいるようにしか聞こえない。
指でスカートのホックを探り当て、同時にチャックも下げてしまう。そのまま身に付けていた全てをずり下ろし、足から抜いた。彼女は少し腰を揺らして何かを訴えたが、坂本は構わず薄い下生えの茂みへと手を伸ばした。
くちり、と微かな音を立てて密壺の中へと指を侵入させた坂本は、熱く狭く柔らかな肉が指に絡み付くのを感じてふっと微笑んだ。
「……熱いの」
一本ではまだ余裕のあるソコは男に慣れているのかと思うほど濡れている。もうすぐにでも入ってしまいそうだと指を増やせば、高杉は坂本の肩に置いていた手に力を込めた。
坂本は、そっと音をわざと聞かせるように指を抜き指しするとそれに合わせるように高杉は少しずつ声を出しはじめた。
「あっ…やあっ……」
「ん?はじめてやったがか?」
坂本は余りに恥ずかしがる高杉に、処女ではないと聞いていたはずだったが、と坂本は尋ねる。
「じゃないっ……けどっ」
「けど?」
秘処の深くをかき混ぜ、外の淫らな突起を撫でる指は緩むことなく、濡れた声で囁くと、高杉は明らかに背筋を震わせた。
「なん、か。へんっ…だから……」
高杉は小さく呟くと身を寄せて坂本にすがった。
坂本はそれを愛しく思い、乳房を弄っていた手を背中に回し、身体を引き寄せた。
「今まではどうじゃった?」
「…っなんか、入ってるだけで気持ちよくなかったけど……っん!」
「きもちいい?」
「わかんなっ……っあっ!」
指を増やし、しとどに溢れる蜜を絡ませ激しく攻めると、高杉はそれ以上の言葉をやめ、短く喘ぎながら坂本にしがみついた。
「気持ちよぉさせちゃる」
坂本は笑うと、高杉の白い首筋に顔を埋め、強く吸い付いた。痛みと共に紅い花弁のような痕がついた。
「ンッ、ッ!あっ、ン、せんせ、い」
小さく喘ぐ高杉は、少し身体をよじらせて、坂本の胸に手を置いた。そのまま腹まで撫でるように手を下ろし、既にテントを張っている坂本のモノに触れた。
「晋?」
高杉は無言でズボンの前を寛がせ、パンツもずらし、中で苦し気に腫れている男根を取り出した。一瞬パンツのゴムに引っ掛かったそれは高杉が見たことのないほどに大きく反り返っていた。
「して、やるから……」
恥ずかしそうに根本に触れてきた高杉に、それまで抱き締めるために座っていた坂本はにこりと笑ってベッドに倒れ込んだ。
高杉は納得いったように頭を下げ、坂本のそれをくわえこんだ。
「はぁ……っんむ」
「………ハジメテ?」
「に、かいめだっ…!」
高杉はどうやら知識が拙いのを指摘されるのが嫌なようで、必死に坂本のものを愛撫しながら息を漏らした。
「ンッ…っ…む……せんせ、きもちい?」
初めてといいながらわざと音を立てて、じっとり舌を絡め吸い上げる高杉に、坂本はおもわず「ん……ええよ、」
艶のある髪を撫でながらしばらく好きにさせていた坂本だったが、長く息を吐くと、唇から己を離させて高杉を呼んだ。
「おいで」
「……んっ」
柔らかな身体を引き寄せて、ベッドに押し倒し、互いの体勢を入れ替える。
「は……」
「こんだけ濡れちょれば痛くないろ」
秘処から溢れる愛液を指先で掬って確かめ、坂本は脇に置いていたコンドームの袋を器用に開けると自身の逸物にそれをつけた。
「入れるぜよ」
言い聞かせるように宣言すると、先端を蜜口に宛がった。ぶるりと震えた高杉は、きゅっと目を閉じる。
それにかまわず、坂本は高杉の腰を軽く浮かせぐっと引き寄せ、奥まで一気に自身を差し入れた。
「あっ……せんせいっ……!」
「ん、熱いの」
動くかどうか、数秒考えていた坂本だったが、唸るように絡み付いてくる高杉の中にたまらず、腰を動かした。
「あぅ!あ!ふか、い!おなか、くるし…っ」
「苦しいだけかの?」
「いい、よ?……あっ!」
高杉は高い声で喘ぎ、坂本から顔を背けた。
「う、あっ、ああっ、っ…あ…!」
奥を突く度に響く喘ぎは部屋を満たし、聴覚を満足させてゆく。
「は……あっ…うんっ……」
何度も擦り、息をあげていく中で、ふと坂本は動きを止めた。
「………っ晋…ゴムとってええがか」
高杉は一瞬、何を言われているのかわからず問い返した。しかし坂本が己の中から彼自身を抜いたことですぐに気付き、はっきり顔を強ばらせた。
「えっ?え、や、だっ!」
「外で出すき」
拒否の言葉を簡単に宥められ、高杉が一瞬迷っているうちに、坂本は簡単に避妊具を外してしまった。
「や、あ、なんっ……やぁっ!」
緩い力の抵抗では何の役にもたたず、高杉は結局そのまま受け入れてしまう。
「……っく、たまらんの」
緊張からか強く締め付けられ、坂本は眉を寄せて声を漏らす。
「ッ…ば、か!絶対外で…っあっ、あ、っ!」
高杉が全てを言い終えるより先に、坂本は強く腰を穿ち、快感を高めていく。
「あ、あ、おく、にっ……んぁあっっ!」
「ここが、ええ?」
一点をぐっと突かれ、高杉は大きく背を反らす。
「ひぅっ!な…っあっ!ああんっ!もっ……なんか、くる、っ!!」
腹に納めていた圧迫感は麻痺したようになくなり、快楽かどうか考えるよりも早く腰が穿たれ、高杉はただ息を荒げて声をあげていた。
肌と肌がぶつかり合う濡れた音が混ざって淫猥な音をあげている。
「っ晋っ……出すぜよ…」
熱っぽい声と共に、坂本は高杉の腰を掴むと、一層深い場所へと突き入れた。
「あっ!?やっ、やだせんせ、中!だめっ!妊娠しちゃうからぁっ!」
「っく……」
「やっああ!あつ……い!」
約束と違うと涙を溢す高杉の言葉を流し、坂本はそのまま中へと熱い精を吐き出した。
「ッーーーは、晋」
短く息を吐いて、坂本はばたりと覆い被さった。繋がったままで、中がゆるく締まる。
「や…あ………何で中っ……」
顔を見せようとしない坂本に震える声で訴える高杉は、中から精液が溢れるのを感じてきゅっと目を瞑る。先ほどまで平気で腕を背に回していたのに、今は怖いと思う。
「孕んだら、わしんとこ、おいで?」
その言葉は甘さと共に、独占欲も含んでいて。
「せん、せ」
嬉さか悲しさか、わからない涙が頬へと、伝った。

秘め事同級生坂高

黒板に、チョークの当たる音。それを書き写す為に紙に鉛筆を走らせる音。
教科書やノートを捲りながら教師は動揺し汗をかき、授業を進める。
喋っているのは教師だけで、他は静かな筈なのだが、その教室に響くのはそれだけではなかった。カツンカツンとチョークの音。さらさらと聞こえる筆の音。話し声など聞こえない教室に、濡れた音が響いていた。
「んっ………」
ぐちゅ、ズル、ズッ、と、何かに吸い付く音と、ふっ、んっ、と苦しげな人の息づかい。
教室に相応しくない淫靡な音は、静かな空間の隅々まで届く。
「もっと、舌ァつかい」
「んくっ!……んっ……ッ」
教室の一番後ろの窓際は坂本辰馬の席である。ガリ勉ばかりの特進クラスには似つかわしくない性質の男ではあるが、なぜか彼の席はそこにあった。坂本は椅子に深く座り、足を広げている。そしてその足元には男が座り込んで、坂本の股間に顔を埋めていた。
「っんっ」
坂本の足の間でその男を慰めているのは、高杉と呼ばれる男だった。
このクラスの人間ではなかったが、素行の悪さでは十分に有名な生徒である。
「はっ…っふ……チュ」
そんな高杉が、特進クラスの生徒の一人の足元に跪き、人の目のある中でその男の性器をしゃぶっているなどと、誰が信じよう。
「っ……は……んむっ」
ジュクジュク、ヌチャリと、唾液と空気とカウパーが混ざる音が教室中に響いていたが、止める者は誰もいない。止めたら、どうなるか皆知っているからだ。いつだったか、行為を止めにかかった教師が翌日、忽然と姿を消した。それら誰も、止める事はない。ただ広まる噂だけが背鰭や尾鰭をつけて二人の存在を異質なものに変えていた。
「は、ふ……ジュッ…んっく」
椅子に浅く座る坂本の陰茎を口淫と手淫で喜ばせる高杉は、自らも雄を興奮させていた。
「いつまでノロノロくわえとるんじゃ?ワシのモンがぼがに旨いかえ?それとも見られるんが……」
「―――――ッァッ、ん」
瞳に溜めた涙を流しながら、苦しげな声と共に坂本の性器に舌を這わせる高杉は、それでも嫌がっているようには見えない。だいたい、高杉が自分の嫌なことをするはずがないのだ。
どれだけ眉を潜めていても、心の奥底では悦びすら感じている。そんな高杉の性癖が、坂本とぴったり重なったのだろう。
「おんし、何勃たせとるんじゃ?」
坂本は唇の端を吊り上げながら、高杉の股間を爪先で踏みつける。
「………っツゥっ!!」
声を出すなと命じられていたわけではないが、高杉は陰茎から唇を離し反射的に声を抑えた。
ハッと気付いた時には、高杉の頭上から冷ややかな視線が降り注いでいた。
「…………離してええと言った覚えはないぜよ」
視線より冷たい声を浴びせられ、背筋がぞわりと粟立つ。回りに聞こえないように言われたその一言に高杉は俯いた。
坂本は軽く息を吐き、そのまま高杉の股間に爪先を強く擦り付けると、俯いてしまった高杉の顔をあげさせ、再び深くくわえさせた。
ガタッと椅子と机が鳴って、クラスの視線がチラチラと刺さる。その視線がまた、たまらなく興奮する。
見られている、視線が痛い。醜態をさらす自分に、ゾクゾクする。
「っ…ぅっむっ!!!」
何度も喉の奥に陰茎を突き付けられ、茂みが高杉の顔に当たる度、ヂュポヂュポと交ざる淫猥な音が響く。
「……っ全部、飲みィ」
「ッんぐっ!」
坂本がくっと息を詰め、囁くとぎゅう、と頭を押し付けられた。同時に、高杉の口の中に、熱い精液が流し込まれた。
高杉は涙を流しながらそれを必死に飲み込んだ。
喉が焼けるように熱い。
味など表せたものではなかったが、高杉は全てを飲み込んでから、小さく口を開けて坂本を見上げた。
「よおできちゅう」
坂本は唾液と精液に濡れた高杉の唇を指でなぞると、殆ど声を出さないまま高杉に尋ねた。
「ほしい?」
高杉はその一言を待ち望んでいたかのように目を輝かせ、欲しい、と返した。
「ここでええがか?」
「どこでも……」
消え入りそうな声で高杉は答える。例えこの教室の中で犯されようと、視線が刺さろうと、坂本が与えてくれるならばそれだけでいいのだ。と、そんな盲信めいたことまで思っていた。
「どうせやったら皆に参加してもらった方が楽しいかのお?」
だからこのクラスではつまらない、と、坂本は音を立てて椅子を引いた。
びくりと揺れたのは高杉の肩だけではなかった。
「安心し?おんしは誰にも触らせんよ」
優しい言葉が、毒のように刺さる。
「高杉」
坂本は、簡単に身を整えるとそっと高杉に手を差し出した。
「おいで」
小さく鼓膜を揺らした声に、下腹部が重くなるようだった。

(お互いさまですし)坂本×女体化高杉

「お前ふざけんなよ」
「ふざけちょらんよ、大真面目じゃ」
「それがふざけてんだっつうの」
「一回見てみたかったんじゃ、女のコの晋助」

呆れて言葉がでないというよりは、やっぱり女が好きなのかと落胆した。
自分の身体の違和感と、ピリピリしてしまう心の違和感に頭がついてこない。
わかるのは、やっぱり坂本はバカだということくらいだった。



「暇ができたから食事にいこう」と誘われた。こちとら暇じゃないんだ、と文句をいいながらも、夜には二件目の飲み屋で、その後はホテルへ。だいたいこのパターンなのはわかっていた。けれど今回違っていたのは、どこかで辰馬が薬を盛ったことだ。油断大敵、とはこのことで、気付けば胸が現れて、下がスースーしていた。

「しかしほんまに効果があったとは……こりゃええのう」
適当に入ったホテルのベッドの上で膝の上に乗せられたまま、胸を掴まれる。
「ふざけんな元に戻せ」
自分でも大きいとは思ったが、辰馬の大きな手でようやくおさまるサイズの胸は、女のものにしても大きな方ではないだろうか。
柔らかいものは確かに気持ちが良いが、なぜ俺なのか。女を抱いたって怒ったりしないと最初に言っておいたのに。
「きもちええがか?」
「いや全く」
揉まれている感覚はあるが、気持ち良いというには少し違う。肩でも揉まれていた方がまだ気持ちが良い気がする。
「うーん、そりゃ困ったのう」
辰馬は話しながらも手を動かし続け、胸の先を摘まんだり、押したりしてくる。男の体でもそう大して感じる方ではなかったからか、背中に感じる暖かさに安堵はすれど、気持ちが良いと思うほどではない。
「いつもの方がええ?」
「当たり前だろ」
「ほうがか……」
あからさまにしょげた声が降ってくる。女の身体にして何が楽しいんだか。
いつの間にやら身体はすっかり女のようで。心なしか声も少し高くなっている。
筋肉が落ちたというよりは、どこもかしこも柔らかくて、自分の身体だと言うのに違和感ばかり覚えた。
「そんなに女が良いのか…?」
一瞬、不安が過った。普段なら多少思ったとしても口に出すことなどないのに、何故か言葉が口から溢れていた。その言葉に反応したのか、辰馬はふと手を止めて、後ろで小さく唸った。
「ほがぁなことないきに……おんしが嫌ならこれ……」

辰馬はそれまで胸を揉んでいた手を止めると、ズボンのポケットから白い包みをとりだした。
「元に戻る薬じゃ。三十分くらいで効いてくるきに、それまで揉ませちょって?」
自分のものではない体温が、するっと腰を撫でる。「好きな子のおっぱい揉むのは男の夢じゃもん」と、中学生男子のようなことをいって、辰馬はいじけてしまった。
「好きだなぁお前も」
包みを受け取りながら苦笑する。女好きの癖にこんなわけのわからないことをするくらいには俺の事が好きなんだと思うと元に戻るあと少しの間なら我慢してやらないこともない。
包みの中は粉薬のようで、口に流し込んでから部屋にあった水で飲み干した。
苦味はない。むしろ妙に甘ったるい。
甘い口の中の味が嫌で、ベッドの上でボケッと待っていた辰馬の膝の中まで戻って、すぐにキスをした。
辰馬は驚いた表情で一瞬だけ目を見開いたが、すぐに微笑んで目蓋を閉じた。開いた口から舌を差し入れて絡ませる。甘ったるい味が消えるまでゆっくりキスを繰り返し、満足してから膝に落ちついた。
辰馬の腕が腰に回ってきてぎゅうと抱き締められる。あと少しの時間だし、好き勝手にさせておこうと背中を胸に預けて力を抜いた。
「触ってええ?」
「さっきから散々触ってたろーが」
「下も」
「勝手にしろよ」
袂から帯を緩めながら下へ向かう大きな手。
普段なら雄を弄くるその手は、今日は何もついていない茂みへと滑り込む。
指が一本、下生えを探るように奥へと進む。女のものとはいえ、秘部を触れられているという羞恥に身体が熱くなった。
下を探るのと反対の手は、未だに胸を揉みながら、乳首を執拗に弄っている。カリッと爪が引っ掛かる度、さっきまで感じていなかった感覚が走る。
「………、」
気付かれないように深く息を吐いた。
さするように秘部を行き来する指を感じると、じわじわと腹の奥におかしな熱がわいてきた。
身体が元に戻る兆候なのかもしれないと、辰馬の腕を取って、そっと諫めた。
だというのに辰馬は手を止めようとしない。
「おい……」
小さく声を出して、身体をよじってみる。けれど辰馬は耳朶を食んで低い声をだした。
「のう晋助」
ちゅく、と舌が耳に入り、鼓膜に直接声が響く。
「女になる薬が作られた理由をしっちょるが?」
「っ……は…?」
「普通は女になりたい男が使うもんじゃろ?」
「んっ」
キュッと乳首を摘ままれて、今までになかった感覚を感じて、声が漏れた。何かがおかしい。
「見た目だけ女になることなら男の姿でも出来る。やが女の身体にならんと出来んことがわかるがか?」
秘部をなぞっていた辰馬の指が、ふと止まる。
「女の身体になったら、元が男でも妊娠できるじゃろ?」
止まっていた指が、入り口を強く押した。何がが溢れたような気がしてぞくりとする。
それが自らが出した愛液だと気付くのに時間はいらなかった。
女の身体から男の身体に戻る兆候にしてはおかしい。身体が疼く。
「天人の世界では男が女の身体にして子供を産んだりすることもあるようなんじゃが、地球じゃあ神への冒涜じゃとかなんとかで、こんな薬うっちょらん」
「な……ッ」
辰馬の指が、中に入ったのがわかった。自分が愛液を溢れさせていることも。
「身体が女になるなんて魔法みたいじゃろ?一度作り替えたもんがそうほいほい戻ると思うがか?」
「な……てめ……さっき何飲ませた………」
「媚薬みたいなもんじゃ」
べろりと耳の裏を舐められてピク、と首の筋肉が勝手に動いた。
「なんも考えんとわしがおんしに変なもん飲ませたりはせん」
チュッチュッと音を立てながら首を吸っていく辰馬の熱塊が背中に当たっているのがわかった。今まで一度だって感じた事のない、恐怖のような何かを感じる。その予感は当たった。
「わしとの子、欲しゅうないがか?」
言うが早いが、ベッドの上に押し倒された。手でも足でも振って逃げ出せばよかったのに、足の間に入られて、片腕をベッドに縫い付けられ身動きがとれなかった。
これが女の体力かと思うと同時に、恐怖のような、安堵のような、複雑な気持ちで胸が押し潰されそうになった。
世界に女はごまんといるのに、この男は、わざわざ男の俺を女にしてまで子が欲しいといってきたのだ。
だがこいつは俺の気持ちを、ひとつも汲んでなどいない。
「っ…んっ…!!」
反論しようと開いた口をキスで塞がれて、中に入ってきた指がぬくぬくと音を立てながら動き始める。
女の身体はその指の動きに感じてしまっていた。異物感もあったが、それを緩和させるように溢れる愛液が付け根を伝うのがわかった。口中を空気を奪うような乱暴なキスが苦しい。
「ンンッ!っ…ふ…ぁ!やめっ…っあ!」
呼吸を整えるのも許してはくれない。ぐちゃりぐちゃりと濡れた音が耳まで届く。
「いや?こんなに溢れさせちょるんに」
中から引き抜かれた指を目の前に見せ付けられる。ヌラヌラとした液は糸を引いていやらしく光った。
「びしょびしょじゃ」
指を増やされ、動きがはげしくなる。悲しいわけではないが、自然と涙が溢れていた。
「ぁっ!あっ…や…!」
いつの間にか、腕の拘束は外されていた。抵抗しようと思う気持ちも嫌だと思う気持ちも少なくなっていた。ただ、気持ちが良い。はじめての感覚ばかりで、頭がおかしくなりそうだった。
「はぁっ……」
愛撫の手が止まって気が抜けた。今のうちに息を整えよう、そう思っていたのだが、辰馬はカリッと胸の先を噛んでから、舌を這わせて、腹部から、舌の茂みへ滑らせた。
「ひぁっ!」
足を広げられ、辰馬にそこを舐められた瞬間、脳まで溶かすような電流が走った。生暖かい粘膜が性器を包む。フェラをされているときとはまた違う気持ちよさに身悶える。
「やぁっ!だめっ……ぁっなめるなぁっあ!」
舌がヒダを広げてピンポイントで豆をつついてくる。それだけで足の先まで甘い痺れが走る。
頭では、抵抗しようと思う気持ちがある。けれど身体は快楽に正直で、ひくひくと腹の奥が疼くような感覚が苦しかった。
「たつま、ぁっ……!」
名前を呼んで、股の間に顔を埋めたままの辰馬の頭に手を伸ばした。引き剥がすこともできず、力なく髪を引っ張って訴える。
「も、やめ……や……」
このまま抱かれてしまうのは嫌だった。せめていつものままなら、男のままなら、好きなだけ酷く抱いてくれても構わなかった。
考えまで女々しくなっている気がしたのは涙が止まらなかったからだろうか。
「……も……もどせ……」
「そんなに嫌やったがか?」
辰馬は指を引き抜くと、ぬっと覆い被さって尋ねてきた。
先程までとちがう優しい声に、嫌だ、と首を縦に振った。
正しくは女のまま抱かれるのが嫌だった。このまま抱かれてしまったら、辰馬は男の自分など求めないのではないか、とさえ思って。
心臓が掴まれるように痛い。
「そんなに?」
唇を噛んで一度頷くと、フッと辰馬が笑う気配がした。
「それを聞いて止めると思ったがか?」
声と同時に、片足を持ち上げられ、秘部に熱い肉棒が押し込まれた。
「ひぁあっ……!」
十分濡れていた筈なのに、一気に入ってきた怒張はキツくて、力の抜き方も知らないまま、ただ喘いだ。
「あっ入って……あっあ…!」
グッと根本まで押し込まれ、蜜壺がキュッと締まる感じがした。
「あっや…うご…くなっ…あっ……」
「はっ…こがな締め付けよって『動くな』とはの……!」
「あっ!っは…!アアッっ!!」
言い終えるより前にズッと腰を引かれて、中から抜け出す感覚がした。内壁を熱が擦っていくのを生々しく感じる。
「あっ……っあ!!んっ…あっ!や……っ」
全て抜けてしまう前に、また押し込まれる。激しい律動に声を抑えきれない。
「やあっ…!たつまっ!も……アッ!」
嫌だと言う言葉を遮るように、乱暴に口付けられ、胸を掴まれた。敏感になった身体がキスと愛撫に反応して、辰馬を強く締め付けた。
「っ嫌じゃというわりに締め付けて離さんのう…っ」
「やっ…あっ!ひっ…ぁっ……!」
段々とピッチをあげる腰使いに揺さぶられて、奥がキュウキュウと疼く。
「あっあ……っもっい…イくッ……ッア!」
目を瞑っている筈なのに目の前が白く光ってスパークする。
辰馬の髪から汗が滴って身体に落ちる、それだけで感じてしまう。もう限界だった。
「アッ…も…イクッ!!」
「……晋…っっ」
「い、あ、やぁっ!!なかは…っ!!」
足の先から指の先まで、一気に力が入って、つりそうになるほど筋肉が震えた。
同時に辰馬も熱い息を切って、男根を中へ強く押し付けた。熱い先走りがが奥に溢れたのがわかって、気持ちよさと同じくらいに恐怖を感じた。
「っく……!」
「アアアアッ!やァッ!」
絶頂の瞬間、意識が一瞬飛んだようで、気付くと辰馬の腰に足を絡めていた。辰馬がブルリと身体を震わせ、同時にビュクッと熱い欲が飛び出し、子宮口かかった。どろりと中を流れるそれにすら身体が反応してしまう。
「あっ…中ぁ……」
腹の中が熱い。
最後の一滴まで注がれて、身体中の力が一気に抜けた。ただ、腰に抱きついた足だけは固まってしまったように動かなかった。
辰馬の腰をがっちり抱えたまま、その肉棒を中に感じる。固さをなくしたとはいえ少し動かれただけでも内壁が擦れて身体が反応した。
「あ……ぅ」
腰に絡んだままの足が離れないと踏んだのか、辰馬はその手をこちらの背に回してきて、勢いをつけて起こし上げた。
「ヒッ…ァ!!」
一気に大勢が変わり、辰馬の膝の上に乗せられる形になる。自分の体重もかかって、いっそう深く入り込む形になり、目の前が眩んだ。
入っていた精液がどろりと中を垂れた。目があつい。
幼い子供を抱えるように抱かれてはいるが、繋がったままなのにはかわりない。
少しの刺激でも感じるのが辛くて自然と涙が出ていた。
「晋助?」
「も、抜けっ…」
「おんしが足外してくれんと…」
そっと足を撫でられて、固まっていた関節から力が抜けるようだった。
「ん……っ」
足が解けて、余計な力が抜けると、重心の変化からか、中に辰馬の存在を強く感じてしまい、彼の肩に顔を埋めて、身悶える。
普段は存在しない柔らかな胸が辰馬の胸にあたっていて、おかしな気分だった。
「どうじゃった?」
「…………」
あれだけ嫌だと言ったのに、中に出して、文句のひとつでもいってやろうかと思ったが、嬉しそうに身体をさわってくる辰馬に、なんだか何も言えなくなった。
やっぱり女がいいのかなんて聞けないし、だからといってこんな風に抱かれるのも不本意だった。
「晋?おこっちょる?」
「…………」
「不貞腐れんといてくろ?」
あやすように頭を撫でてくる手が普段より大きくかんじる。好きな手だ。
「……本気で嫌なら……殺してる」
息を吐いてそう言うと、突然頭を掴まれて、そのまま無理矢理にキスされた。
開いた唇の間からぬるりと舌が入ってきて、それに応えるように舌を絡めると、辰馬は嬉しそうに笑った。
何度もキスを繰り返しているうちに、中に感じていた雄が質量を増して、膣内を押し上げる感覚がした。
「っばかおまえ……」
「晋助、もっかい……」
「っ…無…理……!」
ぐっと腰を突き上げられて、肉棒が最奥に当たる。慣れない身体で疲れているのにもう一回なんて、と思っていると、悪魔の囁き。
「元に戻る薬、いらんがか?」
「おまっ……ぁっん!」
薬があるのか!と思うと同時に激しく中を穿たれる。
もう止めてくれとと思いはしたが、両手で頬を包まれて優しく微笑まれると弱かった。
「っ惚れた弱味だ……!」
馬鹿野郎!と心の中で罵って、その唇に噛みついた。
「おんし、しょうまっこと、たまらんのう!」

omosessuale坂高

一瞬体が浮いたような気がして、いや、意識もか。色々と光ったものがチカチカと目の前を駆け巡って、雷に打たれたみたいな衝撃と、その瞬間に一気に全身から力が抜けるのがわかった。
真っ暗だ。
「っ…はっ、しんっ…?」
水底から聞こえるように靄がかかった声が聞こえた。それは聞き慣れた声。遠く、待ち焦がれた声。
「しんすけ…?」
ゆっくりと浮上してきた意識で、今度ははっきりとその声を聞いた。熱い息遣いに、指先まで痺れる感覚。俺は今この目の前にいる彼のことが心臓が潰れそうなくらい好きだ。(何故ってこの瞬間に俺は死にそうなくらい幸せだと思えるから)
「……かはっ…」
声が出ない上に力も入らない。覆い被さった彼の身体が俺をのぞき込むように動いた。大丈夫だと言いたくて繋いでいた手に力を入れる。
「はッ…意識、飛ばしとう?」
息の上がったまま彼は問いかけた。
「っ半分、な」
一回咳いてから、誰のものかわからないくらいにカラカラになって掠れた声で答えてやった。
喉が乾いている。何でもいいから水分が欲しい。辰馬は俺のそんな気持ちに気付いてか一瞬優しく微笑んで口付けてきた。少し開いた隙間から舌が入ってくる。歯列をなぞってから俺の舌を舐り、ひたすら唾液を絡ませあう。
ただ口付けているだけなのに、ひどく快楽を感じる。無意識に繋いでいた手を解いて、もじゃもじゃの頭を抱きこんだ。ふわふわはねる髪の毛がくすぐったい。
「…っく」
飲みきれなかった唾液が口の端を伝う。
未だ後孔に入ったままの彼のものが徐々に熱を取り戻していくのがわかった。
「はんッ…抜けよ…」
絡み付いてくる舌を無理矢理剥がして言ったのに、直ぐに塞がれた。ノーのサインだ。
しつこくしつこく舌を吸われて、上からも下からもクチクチと淫猥な音が聞こえる。耳を塞いでしまいたかったが、柔らかな髪から手を離したくなかった。矛盾している。
「はあっ…!」
唇が放れてすぐ、奥を突かれた。つい声を潜めてしまう。昔、男の喘ぎなんて聞いても面白くないだろうと聞いたことがあった。それに辰馬は笑って答えた。
「可愛い声、聞かせて」
「ッあぁっ!」
一気に内壁が熱に擦られて、声が溢れた。
恥ずかしさに目を背け横に伏せたが、直ぐに戻されて視線が合う。
「顔見せとうせ」
前髪を掻き上げられて、傷だらけの左目を露わにされた。
辰馬の大きな手が、指がその傷に触れる。もう痛みは無いはずなのにちくりと痛んだ気がした。
「は…お前も声、聞かせろ…」
「しん…」
辰馬はまた笑って(というか普段の顔が笑っているからどれが本当の笑いかわからないが)額に口付けを落としてから俺を抱き上げた。
「晋助…好きじゃ」
耳に聞こえる声にくらりとする。
「愛しとうよ…」
体格差があるとは言えこうも簡単にされるのは男としての意地が…とは思ったが、一層深くまで入り込んだ熱にそれ以上の思考が続かなかった。
「ふ…締まるの」
「ばっか」
体重差だってあるといえばあると言うくらいなのに、こうも簡単に軽々とされると悔しいと言おうか、しかしそんな力強さにまたときめいてしまったり。
中を抉るように、動く熱に、痛みを感じるよりも快楽を感じる。頭を抱いていた手を背中に回した。(俺がつけた爪痕がある)
熱い吐息が混ざり合っていくに連れて、絶頂も近くなる。勃ち上がった熱根から滴る先走りが俺と彼の腹を濡らしていく。
「たつまっ、もう…」
「好きにいきとうせ」
いつの間にか伸びてきた手が熱を掴んで激しく擦った。
「っく……は…!」
歯を喰いしばって白濁を飛ばした、この瞬間だけは生きている心地がする。
「、いてェ……」
腹の中がもうありえねー事になってる気がする。いや、実際ありえねー事になってる。
「もーいっかい」
「馬鹿かお前…」
珍しくクスクス笑う男にほだされる俺も俺だ。キスされりゃすぐに真っ直ぐな思考は消えていく。
「絶倫だな」
「晋もそうじゃ」

(結局、また、朝まで)

per carita!坂高坂

(なんて好い顔をするのだろうか。)
(なんて好い、声で。)
久しぶりの交わりは、思考を鈍らせた。
(好きで好きで好きで仕方がないのに嘘を吐き続けるのはもう、 疲れた。)


熱くて熱くて結合部から溶けてしまいそうな程の快感が全身を駆け抜けている。
「いつ見ても奇麗じゃの…」
大きな掌が、腰を掴んで、撫でる。
「どこが、だ」
傷だらけの身体を坂本は奇麗と言った。
「全部」
気持ちよさそうに笑う顔を見て、高杉はゆっくり目を閉じた。
高杉は四つ這いになった背中に覆い被さった坂本の少しの重さと汗ばむ熱を感じる。ハ、ハ、と短く息を吐いて身を捩るが中を突かれる感覚とぐちゅりという粘液の音に逃げられないと悟った。
「っあ…くッ」
「声、出し」
「っい…誰がっ…っ」
「…かわええの」
何が可愛いんだ、と高杉は思ったが声は出なかった。坂本の手は高杉の身体を余すところなく触れていく。腰から滑り降りた手が、性器を包み込む。やわやわと揉みしだかれたそれはすでに形を変えていた。
薄い肉と肉がぶつかり合い、乾いた音を鳴らす。それに耳を塞ぎたくなった高杉は一層強く目を瞑る。内壁を擦られる感覚がリアルに身体に刻み込まれていく。
音が大きくなっていけばいくほど、高杉の力は抜けてしまうようだ。四つ這いだった彼は既に上半身を崩し顔を布団に埋め、背を猫のように反らして震えながらも布団を握り締めていた。
「は…晋、出すきに」
「ッ、一々っ…言うなっ…!」
ああまったくこの男はと思うと同時に内壁を目一杯擦られた。濡れた音と共に一層深くまで繋がった瞬間、身体の奥に熱いものが注ぎ込まれる。高杉は奥歯を噛み締め、息を詰めた。
「………ハ…、まだ晋はいっとらんの」
数秒射精感に浸った男が高杉に声をかけた。それに対して高杉は何か言いたげにしたが、動けぬまま布団に顔を擦り付ける。
瞬間、高杉の身体は浮き上がった。
「い…ぁッ!」
グ、と一層深く繋がる結合部に高杉は高く声を上げた。対面させられ、坂本に抱きつくような格好で、激しい射精感に耐えようとする。
「なんで我慢するんじゃー」
「…っ…」
その声すら聞こえていないのか、ガクガクと揺さぶるように高杉を追い立てた坂本は、その身体をきつく抱きしめた。
「――く…!」
瞬間に身体を揺らし、喉の奥で艶やかに鳴くと彼は力を抜いた。性器を擦っていた腹には白濁が散っていた。ゆっくりと息を吐く高杉に坂本は口付けを送る。唾液が口の端から零れるが、気にも止めない。しかし坂本はおや、と思った。いつもは口付けに応えようとしない高杉が、舌を絡ませてきた。それは控え目な物だったが、坂本を喜ばすには充分だった。きつく舌に吸い吐いて、歯列を舐め、熱を上げていく。耐えられず、坂本は高杉の頭を強く抱き込む。痛むほどの強い力でだった。
「好きじゃ」
音を立て離れた唇には銀糸が伝う。それを拭うこともせず男はそう言ったのだった。
刹那、高杉の中で何かが欠落する音がした。
「……ッ…ん…」
気だるさの残る身体をなんとか動かして、自らの中に入っている性器を抜き出そうと腰を浮かす。先程より酷く濡れた音がして、それがまた高杉の気を浮かした。
男の肩に手を置いて、快感に耐えつつゆっくりと性器を引き抜くとひとつ甘い声を上げた。
「どうし…」
「…黙ってろ」
そう言って肩から手を退け、男の身体を滑り降りるようにして、その下腹部に顔を埋めた。男はその行為に息を呑む。
綺麗な手で精液と分泌液で濡れた性器を握られ、身体を揺らすと高杉は酷く好い顔をしてそれを口に含んだ。
驚きに目を見開く坂本など気にも止めず。
「な……、しん…?」
普段、自分を求めない彼が初めて求めてくるような行為をしてきたことに坂本は驚きを隠せない。高杉はそんな男を無視し、口に逸物を含んだまま目だけを上げると腕を伸ばし坂本の胸を押した。

ばさりと布の擦れる音がして坂本は倒れ込んだ。
(ああ、自分でも可笑しいとは思う。こんな男に安らぎを求めているなんて)
高杉はいつも自分がされているようにそれをじゅるりと吸い上げた。苦味と酸味と生臭ささとのある液すらもその男の物だと思うと気にもならない。男は切れ切れになった息遣いで高杉の名を呼ぶ。ふわりと髪を撫でられて、高杉はその心地よさに一層愛撫を激しくした。
目を閉じ、歯を噛み、声を我慢する男の、感じる顔がもっと見たかった。
(なんて好い顔をするのだろうか。)
「っ、しん……っ!」
(なんて好い、声で。)
音がしそうなほど大量に吐き出された白濁を飲み込んで、男を見ると、片腕で上気した顔を覆い浅い息を繰り返していた。
(俺に、感じている顔だ)
ふと嬉しく思ってから、精液に濡れた坂本自身を丁寧に舐めとると、柔らかく笑って身体を離した。
「晋…?」
高杉の予想外の行動の連続に坂本は不審そうに眉をひそめる。
「なぁ、辰馬」
高杉は見下ろす形で坂本の顔の横に手を突いた。視線はばっちりと合っている。息は上がったまま、2人は見つめ合う。(そこに求めるような熱はない)
「男抱いて楽しいか」
それは冷たく、尖ったような声。しかし瞳は嘲笑うようなものでも、冷淡なものでもなく、ただ、何か言いたげで理解を求めるようなものだった。
「楽しい」
坂本は答える。
「正しくはおんしを抱く事が、じゃ」
「抱かれるのは嫌いか」
「おんしにわしを悦ばせられるんか」
「試してみなきゃわかんねェだろ」
高杉はそのまま喰らいつくようなキスをして、坂本の頭を抑え込んだ。
「もう1回いくとしようぜ」
喉の奥で、笑った。

(次はお前に好きと言えるかも知れない)

肺の中までお前でいっぱいにしたいよ坂高

真っ黒な闇の中で、大きく息を吸う。黄金色の香りが肺いっぱいに入る。闇に紛れてはいたが、その香りだけでその木の元まで辿り着く。と、そこには先客が居た。
「むせそうな香りじゃ」
それが誰だかは声でわかった。その笑い声はいつだって明るい。こんな闇の中ですら明るかった。
「……俺は好きだ」
「そうか」
彼は笑って、手を差し伸べてきた。それを振り払えない俺は流れるように手を伸ばす。
甘くて濃い香りを思い切り吸い込みながら、目を閉じる。
「あんまり吸うと身体に悪……」
無粋な事を言い始めた彼にそれ以上言うなと唇に指を当てて黙らせた。
「気分が良い」
この香りは麻薬のようだと思う。この香が嫌いだという人間も居るが、俺はかなり好きだった。空気が粘りを持つほど重く、肺へ溜まるようなこの香りが。
「抱いてくれ」
ふと零れたのは刹那の欲望。倒れ込んでしまっても良い程に気分は良かった。馬鹿が何かを盛ったのかもしれないだなんてことを思いつつも、欲望の前で俺は従順である。
「今日は素直じゃの」
「偶には、良いだろ?」
「いつもでもええんじゃがのー」
そう言った彼がぐい、と俺の腕を引いた。その力に逆らえず、倒れ込む形で抱き止められた。
それは柔い人間への衝撃だったが、それが何故か大量の死人へと倒れ込んだようなビジョンと重なった。血を流したソレの阿鼻叫喚が広がる、そんな視界に覆われて、息も出来なくなるようだ。
(流れる血が此の花であれば、鉄や温んだ死の香りなどしないのに)
淀んだ思考を拭うように、着物を脱ぎ捨てる。彼は服を着込んだままだったが、かまうことなくその木の下に座り込んだ。

壊れるかもしれないよ、と聞こえた。
それでもいい、と答えた。
どちらも、誰の声だったか。

求めたのは俺。与えるのはお前。
それでもこの行為には50:50の相互関係がないといけないと思う。コートの下の着物の袷に左手を差し込み、割る。それから、顔を下腹部に埋め、無機質なジッパーを歯で下ろす。ただそれだけで「普通ではない」という緊張が走る。ジ、と耳につく音を間近で聞いてから、其れに触れる。まだ熱を持たない其れを引き出して、指を掛ける。
「馬鹿みてぇだな、こんな簡単にテメェの急所晒すなんてよ」
クスクス笑いながら、舌をのばす。その味が甘い蜜であればいいのに、と無駄な願いをした。(結局それは皮膚の味だったが)
「まあ、おんしも同じじゃ」
いつの間にか彼の腕が、俺の背を撫でていた。厭らしい手つきだ。その手は尻をなぶるが、こちらもやられてばかりではいない。
亀頭の先を吸って、ほんの少し歯を立てて。何度も上下に擦ればその塊は熱を持つ。彼が俺で勃つという事実がまた俺を熱くする。まあ、誰でも良いような男であるかもということは俺が一番よく知っていたが。
しかしそれでも今は俺のものだ。
「……何を考えとるんじゃ」
頭上から降ってきた声は多少の不機嫌さを含んでいた。
「………何も」
一度離して短く告げて、また口に含んで舌を使う。先程になかった苦みが広がってむせそうになる。
「嘘はいかんの」
指先が、菊門に触れた。思わず息をのむ。
「…………ッ」
彼の大きな手の、指が。ゆっくりと入ってくる。
「……っん、く……」
「ああ、なんじゃ、自分で解しとったんがか?柔いの」
詰め寄り、責めるような声だ。そんなことは無い、と首を振っても彼は喉の奥で笑い、指を止めはしない。
「辰馬ッ!」
自分でも可笑しなくらい切羽詰まった声を出してしまったと思う。悪いのは全てこの香りのせいだと思いたい。橙の小さな花のせいだ。俺も彼も地面に散ったそれが汗ばんだ体に張り付いている。
「まだやき」
後頭部を押さえつけられ、目を瞑ってしまう。数度彼の力で動かされ、放されたかと思うと熱い熱が飛散する。
どろりとしたそれが、顔にかかる。
「酔狂なことしやがる」
そう言って顔についた白濁を舐めとって、唇を合わせた。きっと不味いと言って顔をしかめるのだろう。
舐めたそれを口移しするようにキスをして、いくらか唾液を交わらせると、彼はやはり顔を歪めて「不味い」と言った。しかしその目は笑っていた。真意を計りかねて「そうか」とだけ答えると、彼は今まで着ていた服を全て脱ぎ捨てて、抱き締めてきた。先程に見えたあのビジョンはもう浮かんでこない。ただ、酔ったように香りに浮かされていた。
彼が自らの大腿を叩いて誘うので、その肩に手を置いて、腰を沈めた。声を耐えようとした歯がギリギリ擦れた。
「っ………うぁっ!」
緩慢な動きにじれた彼が、腰を掴んで引き寄せた。途端に、衝撃。
「良い声じゃ」
そう言われてまた、首筋に衝撃。というよりも痛みだ。
熱い、熱い。
もう季節は秋だというのに、(そして此処は外だというのに)
身体が、熱い。
無言で腰を打ち付けてくる彼の背に腕を回し、何度も息を飲んだ。この快感は日々を不自由にさせるほど、俺を縛り付ける。しかしそのためなら誰にでも足を開くような売女にはなりたくない。いや、実際それでもよかったのかもしれない。彼がそれを許さないだけだ。だがそれが俺にとって一番重要な事だった。
(お前が俺を手放す事はない、と、自惚れさせてくれないか)
前を擦られて、その刺激に達する。締め付けに、彼も奥で果てた。
彼の唇に、散った小さな橙の花がついていたが、気にせずに己のそれを重ねた。
(甘い蜜の味がした、気がする)
裸で草むらに横たわる。寒いと言ったらコートが降ってきた。そんなつまらない優しさを見せるくらいなら、いっそお前もこの香りに酔って狂ってしまえばいいのに。

見上げたそこに、橙色。

触れてみたかっただけ3Z銀桂

夏休み始まって一週間。午前中だけの補習授業の後でも教室には人が居る。クーラーのついた教室、騒がしく笑う声、外は青空、蝉の声。青春の夏だと言わんばかりの好条件が揃ったこんな日だが、俺は少し寂しくなる。
「3Z委員長ーいたら至急坂田の部屋まで来るよーに」
ブツリ、と切れたそれは校内放送。一度しか言わなかったそれを、こんな騒がしい中で一体何人が聞いただろうかなんて思いつつ、俺は盛大に溜息をつく。
消し終わった黒板の隅にある卒業カウントダウンの文字。少し早すぎるような気もするそれを見て、重い教室のドアを開いた。



「呼び出しまでしてなんですか先生」
「ヅラ不足ー」
「ヅラじゃありません桂です…って先生…っ!」
ガラガラガラとイスのキャスターを転がして入口まで来た先生はひとことだけ言って腰に抱きついてきた。赤子のようにぎゅうっと抱き付く、力は剥がそうにも剥がせない力だった。そうして俺は結局その状態に甘んじてしまう。
先生のふわふわな髪に手を置いて、やわらかなそれに安心する。
教室よりもクーラーの効いた部屋は窓を閉めているせいか静かで、微かに外からは部活動の声は聞こえていたけれど、騒がしくはなかった。
抱きついたまま動く気配のない先生の頭を見つめながら彼が何をしたいのかぼんやりと考えていると、ふいに音がした。ジャッというそれはジッパーを下ろす音だ。
「ちょっ…!何やって…」
「……嫌?」
「場所を考えてください」
先生がやろうとしていることなんて簡単にわかった。だって“そういう”関係なのだから。けれどいけない。此処は学校、俺は“生徒”のままだから。もちろん先生も“先生”のまま。
先生は少し黙ってから立ち上がって、まずカーテンを閉めた。それから入り口のドアの鍵も。ぽかんと立ったまま何もせずにいた俺は間抜けに見えたかもしれない。
いつの間にかすっかり暗くなった先生の部屋は、入り口のドアのすりガラスからしか光が入らない。雰囲気は満点だった。
「これでいい?」
「いいわけな」
「でも好きだろ」
こういうの。と、囁かれたのは耳元で。いつの間にこんなに近くになんて思う暇もなく追い詰められた壁際で。
「え…ちょっ、ま」
待って、とも言えずに塞がれた唇はいつもの煙草の味がした。



暑いのか寒いのかわからない。基本的に熱いはずだけれど先生が強で入れているクーラーの風が直接当たるから寒い気もする。上裸にされて机の上に乗せられる。緩やかに身体を這う舌の感覚に必死になって声を耐える自分は滑稽なのかもしれない。何故って先生は必ず言う。
「声聞きたいんだけどなー」
舌を出したまま下腹部で動かないで欲しい。と、言えたらどれだけ救われたことか。言えないまま指を噛んで、耐える。
だけどこの行為は嫌ではない。嫌だったら殴りとばして訴えているところだ。だけどそれをしないのは先生の事が好きで、好きで、仕方ない俺がいるから。
きっと、最近感じる焦燥感は夏の短さのせいだけじゃない。
(ああ、あと何ヶ月こうしていられるんだろう)
「…なに考えてんの」
「な…んんッ」
「意識、よそに行ってた」
「別に、なに…もっ」
「そ」
いつもなら俺が言うまで繰り返し聞いてくるはずなのに、先生はそれ以上聞かなかった。代わりに悲しそうに目を伏せて、行為を続けた。
熱い秘部に触れる指が嫌らしく蠢いて、貫いた。
「あっ…」
声が漏れる。聞きたくもない声だ。先生は好きだと言うけれど俺は嫌いだ。本音が漏れてしまいそうで、嫌だ。
「入るよ」
いちいち言わないで欲しい。物凄く、恥ずかしいから。
「っ……ハッ…」
「動いてい?」
低くて甘くて、それでいて煙草の香る声。溶かされてしまいそうだ。いや、もう溶けている。
「せん……せぇっ…」
呼びたくて、読んだ。彼には銀八という名があるが流石にその名で呼ぶのは躊躇われて、とてももどかしい。
「こたろう」
最中のキスは甘くて、エロティックで、また俺を興奮させていく。名前を呼ばれたことに、益々熱が上がる。離れたくない。このまま一生、繋がっていてもいいくらいに
「…好き…っ」
必死になって言った言葉。何回言っても恥ずかしくて照れてしまうその言葉。そんな俺に反して、先生は余裕そうに言うのだ。
「俺は、愛してる」
熱に湿った声が性感を煽った。息を詰めて白濁を吐き出して、浅く速い呼吸のまま彼にしがみつき、熱さも忘れてキスをした。


「あっつい…」
「当たり前でしょう」
エアコンが効いているとはいえ室内は湿度が高くて、体中に汗をかいてくっついていれば暑いに決まっている。離れようと思って体を動かすとまだ中に存在を感じて恥ずかしくなった。羞恥に耐えながら抜こうとしていると、突然先生が抱きしめた。先生は申し訳程度にシャツを袖だけ通しているから直接その体温を感じた。
「まだこのままで…」
「でも」
「頼むから」
だめだだめだとは思いつつ、瞼に唇を落とされただけでそれを許してしまう自分がいる。
「………なあ、」
「え」
「…………いや…何でもない」
先生は何か言いかけてやめた。本当はもっといい言葉を探していたんだろう、『しまった』という顔をしていた。けれど俺には先生が何を言いたかったのかわかった気がした。それはきっと俺も言いたかったことだ。
「先生」
「ん、」
「来年は海に行きませんか」
今年は受験だし流石に諦めます、と言ったら先生はぎゅっと目をつむって強く抱き締めてきた。
「海よか涼しいとこ行こう」
そのちいさく呟やかれた言葉に頷くと先生がすこし笑った気がした。

(一瞬先の未来が不安だったのはお互い様だった)

ベビーベッド銀桂狂気エロ

「綺麗だ、」

笑うのは銀髪の男。
裏路地で出逢った彼と、目があったのは一瞬で。次の瞬間には闇の中。どうやら殴られて意識を飛ばされたらしい。気付いた時には衣服を剥がされ、狭いベッドの柵に手足を縛られていた。両の手は頭上で一つに、足は左右に開かれ柵に縛られている。
髪が汗で身体に張り付いて、絡まる。
嫌な汗は流れているのに、身体は動かすことが出来ない。薬を盛られたせいだ。ギチギチと手足を縛る縄が鳴る度に、身体には熱が増してゆく。
「っ……ぅ、はッ」
息苦しくて漏らす声に反応するように、自身が硬くなるのがわかる。こんな屈辱的な格好をとらされていても感じてしまうだなんて、と、涙が出る。
唯一俺を助けられるはずの男は、ベッドから数メートル離れた所で優雅に椅子に座り、俺の痴態を見つめてはにやけている。
舌は正しく動かない。だから彼の名を呼び強請ることも出来ない。
「…は…ッあ……」
この熱を解放出来るのは男だけ。なんとか動かせる目玉で視線を送るが、男は笑うばかり。
「綺麗だ」
もう一度笑い声。しかし気配で分かる、笑っているのは声だけだ、と。
「…ぎ……と………」
彼に嗜虐思考があるのは知っていたし、それを認めていたのも俺だが、今日のように冷たくあしらわれるのは初めてかもしれない。彼は何か怒っているのかもしれない。
「……っ」
呼吸すら支配されそうで、怖かった。ひたすら視線を泳がせ求めて、彼が触れてくれるのを待った。
「なぁ桂?」
普段とは違う呼び方をする時の彼は大抵、何か裏を考えている。彼が立ち上がる気配がした。その空気の動きに、肌がピリピリと反応する。
ギシリ。
ベッドが軋んだ。
「はッ……」
ゆるりと腹部を押された。同時に、爪が立てられて、微笑まれた。その狂気に内臓を引きずり出されそうな感覚に陥る。
息が浅くなっていく。
ハッハッと短い自分の息遣いだけが聞こえる。
「もう少し、遊ばせて」
「ッ、はぁっ…ッ…いっ、あぁっ!?」
「もうドロドロじゃん」
視姦だけでとろけた秘部に、指を差し込まれた。長くて無骨で、それでも器用な指は、奥まで入り込んでくる。否応なく声が出てしまう。
奥で激しく動かされて、彼の指は前立腺を掠める。触れられると狂ってしまいそうになるのに、触れて欲しいと願う自分が恨めしい。
「あっ…あッ、ぎっ、ぁっ…んっ」
「…………ダメだわ」
「ひぁっ…!?」
必死に呼んだ。しかし彼は何を思ったのか突然、ずるりと中から指を抜いて、冷たくこちらをみた。
「もっと、鳴いて」
「ひ………ぅ…」
膝で性器を潰すように強く押され、悲鳴を上げようとしたが首を締められて声は出ない。
「今、ね、お前を殺して、食いたい、よ」
「あ……く…ッ」
「俺に酷いことされて…感じてるお前が好き」
「カ…ハッ」
意識が、飛びそうだ。
暗くなっていく視界に、男の顔が見える。生も死も知り尽くした男は、境界線をわかっていた。だから鼠を殺さず遊ぶ猫のように、俺で遊んでいた。
声が出ない。
「なぁ、何で萎えねぇの?逆に硬くなっちまって…ヒドくされんの、好き?…………言えよ」
「グッ…ッハァッ……ゲホッ…ッ…ハッ、ハアッ」
「言え」
ようやく息が出来たというのに、彼は息つくことも許さず、俺を責めた。
苦しさに涙が零れ落ちる。
「…ど、して」
「どうして?裏切ったのはお前だろ?」
「っな…」
「ねぇ、今度は誰に抱かれたの」
「ッアアアッ!」
秘部から腹に深く刺された物は、堅く無機質な棒。
慈悲も愛もない声は冷たく、慣らすことなく入れられたモノより、冷酷な視線が痛かった。
「ち……が………」
「違うって何が?抱かれてないなんて今更言うなよ」
「ッ……ご…め………」
「謝るな、殺したくなんだろ」
「っ、うッ…」
謝れない、言い訳すらも出来ない。悪いのは全て自分だと分かってるからこそ抵抗が出来ないのだ。彼の気が済むのならば、俺を殺せばいい。
「ハッ、んな好い顔して…孕ませたくなんだろ?」
「あっ、う、」
「ああ……お前の子供は黒髪だよな。お前にそっくりなんじゃねぇ?ああ、したら子供はテメェみてぇに節操なしにならねーように閉じ込めちまおうか。小さい頃のお前閉じこめてるみたいでゾクゾクすんだろうし………はは!!」
「っやぁああっ!!!!」
痛み、が深く刺さった。
刀で切られた時の焼けるような痛みではないし、殴られた時のような鈍い痛みでもない。
内蔵から抉り出されるような痛みだった。
「孕ませたいけどね、俺の精液は入れてやらねぇ」
服の一つも乱れていない彼が、自らの胸元を割った。見えた白い肌にゾクリとする。触れて欲しい愛して欲しいその身体と繋がりたい。浅ましい欲だけが放り出される。
「どっかの馬の骨とよろしくやってるような奴には」
やらねぇよ、と言う声が霞んで聞こえた。秘部に詰められていたものが一気に抜かれ、その排泄感に快感を拾ってしまった。身体は一瞬硬直し、上り詰めると弛緩した。腹の上に、精液が飛び散った。
「こんな玩具で良いなら、もう他の奴ともヤらなくて良いじゃねぇか。貞操具でもつけたいワケ?」
言葉は聞こえてくるのに、その意味を考えるのが追いつかない。 ただ彼の顔が酷く悲しげに歪んでいるような気がした。
手を伸ばしたかった。
触れたい。
「………愛して、る」
「……知ってる」
だからこんな事だって出来ちゃうんだよ、そう言って彼は胸元から出した小刀を突き立てた。頬が熱いのは顔を切ったからだろう。
「いっそ切っちゃう?」
冷たい声は、俺を綺麗だと笑う声と同じだった。


みむさんリクエスト
銀桂エログロ
bgm cocco/ベビーベッド

UNDERGROUND現代パロ坂高 ハッテン場

暗い部屋の簡素なベッドの上に、灰色の影。小さな部屋のカーテンを開けては閉めて、人を探す。
 人探しといっても、本当の意味の人探しではない。正しく言えば「品定め」だ。何のって、俺を抱いてくれる男の身体の。



 薄暗い室内の奥から男の声が聞こえてくる。あちらこちらで聴こえる布ずれの音が妙な雰囲気なのは、男しかいない空間だからだろう。
 ここは、ハッテン場だ。
 とは言ってもビルのワンフロアで店のようになっている。
 500円程度で入室できる、なかなか清潔感のある場所ではあるが、やはり場所が場所だけあって妙な雰囲気は拭えない。
 まあそんなことも慣れてしまえば全く気にならない。むしろ慣れきってしまうまでこんな場所でばかりセックスをして、パートナーやセフレを作らない自分も自分だが、そういうのは相性が大事だと思っているし、相性どころか好みだって重要なのだ。要するに自分は我が侭なのだ。我が儘で、欲深い。
 誰か一人を決めるのは面倒だとは思っていた。
 だからこうして相手を探すためにこんな場所に来ているのだが、今日は目ぼしい男はいない。外れの日だろうか、などと思いながら音の聞こえない部屋のカーテンを勢いよく開けた。例えそこで行為が行われていても気にしてはいられない。オープンなのを承知でいるのだ。しかし開いたカーテンの向こうには、下着姿の男が一人、ベッドに座っているだけだった。
 突然開いたカーテンに男は驚いたように肩を揺らして顔をあげた。
 一秒止まる。
 薄暗い部屋の中、上から下まで視線を流して、『身体は合格』と勝手に丸をつける。
 今日は目立っていい男もいなかったことだし、今日の相手はこいつでいいかな、と、カーテンを閉めて中に入った。
「あ」
 男は驚いたような声を出した。どうやらこういった場所に慣れていないような挙動である。しかしそんなものはこちらには関係ない。
「フリーならヤろうぜ」
 一声かけて、ベッドに腰かけている男に近づく。慌てたような、照れたような挙動をしている男の目の前に立ち、足を割って床に膝をついた。本当は押し倒してやろうかとも思ったが、相手が場所慣れしていないなら無理をする必要もない。
「えっ」
膝をついたことで、男の股の間に身体が収まる。驚きに満ちた男の声を聞きながら、その下着に手をかけて、すこし下にずらしてやった。まだ熱を持っていない性器は頭を項垂れている。
「アンタはどっち?」
「へ」
「タチかネコかどっち?」
「や、わしは……」
問いにも、しどろもどろになりながら腰を引く男に違和感を感じる。が、手を止める気はない。
「なんか乗り気じゃねぇな。ネタで来たとか?実はノンケ?」
「へ?」とか「いや」とか間抜けた声を出す男の下着を下まで下げて、なかなか立派な性器を手で撫でながら、問いを続ける。しかし反応してこないのはやはり『そういう』ことだろうか。
「あ……そのっ……こがなばしょに慣れちょらんだけで……」
「初めて?」
 幼く頷く手がどことなくネコ臭く見えてきて、相手を間違ったかなぁ……などと思いながらも手で直接ペニスをまさぐる。徐々に熱を持ってきているのがわかった。こっちの世界を何も知らないのかと思うと少し楽しくなって、その男の性器に唇を寄せた。
「ん……」
まあ男だし反応するもんは反応してしまうだろう、なんて思いながらぱくりと半勃ちの性器をくわえると、頭上から驚きの声がきこえた。
「な、ちょっ……」
 男は相当動揺しながらも大きな声をだすまいとしている。周りからは大きな喘ぎ声が絶えず聞こえてくるのだから気にすることなどないのに。
 そう思いながら、男の一物を食む。下生えに鼻がつくほど喉の奥までくわえ、頬できつく吸い上げる。気持ちがいいのか、ピクピクと震えながら徐々に熱を孕むソレは、生き物のようだ。夢中になって手淫と口淫で上下にしごいていると、熱はすっかり硬く反り返るまでになっていた。男の一物の硬度が増す毎に、口の中がいっぱいになって苦しい。その鈴口からはカウパーまで溢れてきている。誰だってフェラされりゃ気持ちいいもんなぁ、と頭の片隅で考えながら先端を啄みながらチュッと音をたてて唇を離した。
 そのまま顔を横へ。下から上へ、見せ付けるようにペニスを舐めあげながら、また尋ねる。多分今の俺は物欲しそうな顔をしているのだろう。
「ねえ、結局あんたどっちなの、入れたいの、入れられてぇの?」
「わし、は……入れたいけんどっ」
「んじゃ相手よろしく」
 何だタチじゃねえかさっさと言えよ、と、心の中では思ったが口には出すまい。
 床についていた膝を伸ばし、男の肩をつかむと、そのまま体重をかけてベッドへと押し倒した。意外と引き締まっている身体に馬乗りになって、性器を合わせる。フェラをしている間にこちらも準備は万端だ。慣れない様子の男の手を掴み二人分の性器を握らせる。
「お……っ」
「は……ゴムつけとけ」
 戸惑っているのかどうかはしらないが、とりあえずやらせていただこう。ペニスをしごかれながら、男の上に四つん這いになる。ベッドに片手をつき、もう片手は後ろにまわした。
 準備をしていたとはいえまだ解れきっていない後孔に指を宛て、ゆっくり挿入しては解していく。腹の間で性器を擦る男の手は大きく、以外にも手淫が上手い。独りが長かったのだろうかと勝手な事を考えながら、ベッドサイドのローションを指に絡めて、自分の秘所に入れる。それ自体に羞恥はない。が、つい声は圧し殺すのが癖になっている。
「っ………っふ…っ……」
 早めに解さないと相手が萎えるだろうかと、そんな考えが頭をよぎる。が、瞬間、それまで下で見ていただけの男が突然身体を起こしてきた。
「……なに…」
「やらせて?」
「…は……?」
 言葉の意味を汲み取る前に、男の片腕が双丘の肉を揉むように回された。
「ん」
「こがな色っぽい顔されて我慢出来んき」
 熱い吐息が耳元にかかる。
 こちとら片目しか見えていない上この薄暗さで男の顔などまともに見えてはいない。が、男の片方の手は、するりと頬を撫でた。
 ぎゅっと抱き寄せられると、勃ち上がった性器と性器が擦れては濡れる。
「んっ……」
 前での感覚に溺れていると、頬を撫でる男の指が開いた口へと差し込まれた。舐めろとは言われなかったが、そういうことだろう。
「は……んっ……」
 節ばった男を思わせるその指に、銀糸を絡ませて丁寧に舐める。
 男は指を動かそうともしなかったが、気持ち良さに揺れる俺の腰をただ引き寄せるだけだった。
「はぁっ……、なぁ…はやく……っ」
 このまま微妙な快感を楽しむのもよかったが、やはりイきたい。そう思って、指を口から引き抜いて、首をかしげてねだってみる。ノンケなら萎えるだろうその問いも、どうやら男には有効だったらしい。
「ほいたら」
 と、男は唾液に濡れた指を迷いなく後孔へと宛がい、ゆっくりと奥へ入れてきた。内壁がぐっと圧される。
「んっく……」
 声を出せばいいのに、と思ったのはこちらだったのに、自分自身は声を殺してしまっていた。が、それが気にくわなかったのか、今まで丁寧な動きをしていた指が激しく動き始めた。
「んっ…は……!」
 来たのは初めてといっていたから、経験も乏しいものだと勝手に思っていたが、この男、慣れている。確実に一点を探すような動きで、中で指が動くのがわかった。
「うっあァ、っ……」
 激しく抜き差しされる指が絶妙のタイミング中で指を曲げてはいい所をとらえてくる。思わず、男の肩を掴んだ。
「は……っ」
「声……聞かせとうせ」
「あっ…ぅんっ!あっ…もっとっ…!」
 ぐちゅぐちゅと濡れた音が耳まで届く。性器同士が擦れてまた音がする。気持ちがいい。
「っく…!足りねぇっ……」
 段々と自分の声が高く聞こえる。
 身悶え、耳元で叫ぶと、そのまま少し腰を持ち上げられ、後孔に熱を当てられた。あ、入る。と、背筋がゾクゾクするこの瞬間が好きだ。空気を求めて背を反らす。滑るままに、肉がずくずくと埋まっていく。この、瞬間。
「ンンっ……っ!…アアッ…!」
 ぐっとカリが埋まった瞬間に腹の中から抉られる。熱く、重い。
「は…っ、あつ……中ばよぉ締めるのう…」
 無意識に締め付けてしまっていたのか、男が一瞬眉を潜める。普段ならもっとスムーズなはずだが、これはたぶん、男のものが大きいからだろう。
「はぁ……っん」
 つい、唇を噛んだ。
「喘いでくれんがか?」
「は……っ、ア!?」
 男の声に答えるよりも前に、下から突き上げられ、声が出た。
「なっ…あっなかっ、こすれっ……あっ、あっ!…ンっ…!あっアアッ!っあっ……」
 ガツガツと打ち付けられ、肉と肉が弾ける音にグチュグチュと濡れた淫隈な音が耳を犯していく。
「きもちええ?」
「いいっん…っあっ……きもちいい、」
 男のものがスライドする度に中が疼く。しかしさっきまで指で弄っていた所を外している。わざと焦らしているのか、それとも下手なだけなのか。
「っもっと奥っ……!」
「ここ?」
 ねだってみても、外される。これはわざとだ。
「っちが…っ……」
 焦れて腰を揺らして、自分の感じる場所に当てようとするが、男は気にする様子もなく、ただ淡々と腰を打つ。
「あっ……やっ…焦らすなっあ゛!」
汗だか涙だかわからないものが頬を伝う。目蓋が疼く程、熱い。
「すまんすまん、おんしがあんまり可愛くて……のっ!」
「ひっぁああっ!」
 語尾と同時に下からの強い突き上げ。グチュッと埋まった音と共に前立腺にるペニスが当たる。
 気持ちが良い。もっともっと突いて欲しい。
「ンンッ……」
 ねだるためにキスを仕掛けた。だがあっさり主導権を取られて、気付いた時には舌まで犯されていた。
 突き上げは止まない。
「ふっんっ…ん……っふ…」
 激しいキスに息をする事さえままならず、片側だけの視界が歪む。しかしギリギリで、唇を離され、目の前にニッコリ笑った男の顔があった。
「まだ……っいけるろ…っ?」
「えっん゛っあ!はっ…なっ、んんっ――……はあっ、は…」
 対面座位の状態から後背位へ。
 腕を捕まれ挿入されたまま、ぐるりと体勢を変えられて大きく喘いでしまった。
 後ろからガツガツと性急にピストンを繰り返されながら、激しく前を擦られると、まるで獣に教われている気分だった。
 だが、そんな動きに興奮しているのは、他でもない、自分自身だった。
「はぁっ……あ…!あ、あッ!」
「は…クッ……」
 快感に浸る男の声を背後に聞いていると、余計に興奮した。
『楽しませたい』、『気持ちよくさせたい』という感情がふつふつと沸いてきてやまない。
無理な体勢ではあったが、上半身だけ捻って、キスをねだってみる。
 男はすぐに気がついたようで、一層深く中を突きながら、舌を絡めてきた。
「ふっんっんむっ………はぁっむっ……」
 唾液で口の周りをベトベトにしながら何も考えられなくなるほどにとろけた頭で快感を辿った。
「っはぁ……っそろそろかのっ……」
「ひぁ、あ」
 ピストンのスピードが一層上がり、内側を抉られるような感覚は絶えない。
「ッン、ア……もっ……イクッ!!」
 目の前が白く霞む。
 もうでる、と思った瞬間に前を擦っていた手に、ギュッと根本を握られた。
「やめ、あ!」
 縫い止められた射精感が、下半身で渦を巻いて身体を蝕んだ。
 背中にポタポタと降ってくる汗の一滴一滴が、快感に変わる。
「っく……」
 背後の男が、ぶるりと震えた。
「っんは……ぁ!!」
 中で男が弾けたようだった。同時に前を一気にしごかれ、中に溜まっていた精液が一気に外に溢れだした。
「は…ッ……」
 中から男の物が抜かれ、射精後の倦怠感に身を任せ、簡素なベッドに顔を埋めるて荒い息を吐く。
「大丈夫がか?」
 後ろから男の声がかかる。
「ん?ああ……」
 満足だ。と思っていると、男がベッドサイドに置いてあった水を取った。
 渡してくれるのかと思ったら、男は黙って顔を近づけてきた。
 キスかな?と、唇を近づけると、水を口移しされた。
「ん……」
 初めて来たとは言っていたが、行為事態には慣れている様子が可笑しくて、ふふっと肩を揺らして笑ってしまった。
「なんじゃ?」
「恋人みたいだと思って」
 薄い壁とカーテンで仕切られた部屋からは行為の声が響いている、そんな異様な空間なのに。
 男は顔を赤く染めて、照れてたようにはにかんでいた。
俺は上体を少し起こして、男の唇に軽くキスをした。
「なぁ、俺もう出るんだけど、これからヒマ?」
 じっと瞳を見つめながら、男を誘う。
 一度では収まらない熱が燻っている。
 それは男も同じだったようだ。
「ええよ、つきあっちゃるき」
 男はすっと瞳を細めた。
「ほいたら、おんしの名前、教えてくれん?」